ソフトバンクの2年目右腕・田上奏大投手(19)が満点デビューを飾った。12日のロッテ戦(長崎)にプロ初登板初先発し、6回途中無失点の好投。打線の援護なく初勝利はお預けとなったが、初回には自己最速となる155キロをマークした。

 6回二死までわずか75球、2安打。今季の「二軍開幕投手」に指名した小久保二軍監督がはるばる駆けつけ、祖父や母、おじで球団OBの田上秀則氏(大阪・大産大付監督)らが見守る中、堂々の投球だった。

 2020年のドラフト5位で履正社(大阪)から入団。高3春に外野手から投手に転向して半年でプロからの指名を受けた。「隠し玉」と騒がれ、育成に携わった人間、編成関係者の胸の高鳴りは容易に想像がつく。

「原石」を発掘した担当スカウトは球団OBでもある稲嶺誉スカウト(41)。2年前の夏、他の選手を追いかけていた。練習試合・履正社―東山(京都)戦を視察。目当ての選手をチェックし、途中退席する考えもよぎった。

 だが、いつも通りあいさつを交わした履正社・岡田龍生監督(現東洋大姫路監督)の「ちゃんと最後まで試合見て行けよ」という何気ない一言が耳に残った。「試合終盤に本当にとんでもないのが出てきたんです」。縁を感じる運命的な出会いだった。

 永井智浩編成育成本部長兼スカウト部部長(46)は「担当スカウトがぜひ見てくださいと。ズドンという真っすぐに衝撃を受けた。時間はかかるけど育成(指名)では獲れないと判断した」。投手歴半年の右腕の素材を見抜くと同時に、球団がもう一つ指名に踏み切った理由があった。「病気をされているお母さんのために、早く身を立てなければならないという意志がすごかった。他者にはない野心があった」。

 祖父・則一さんの勧めで投手に転向してから2年。驚異的成長で今や「千賀2世」と期待を集める存在だ。一度は支配下を外れ育成落ちを経験するなど紆余曲折を経て、長崎から確かな一歩を踏み出した。