不退転の決意を表明した猛虎指揮官の心は燃えに燃えている。阪神・矢野燿大監督(53)が、本紙評論家・前田幸長氏の独占直撃に応じた。チームの内情に加え、プロ2年目のシーズンに臨む佐藤輝明内野手(22)の成長ポイントと課題、そしてキャンプイン前日の1月31日に今季限りで監督職を退任する意向を明かした自身の胸の内についても赤裸々に明かした。

 前田氏 今年のタイガースはどうですか。

 矢野監督 スアレスが抜けた穴というのがある。外国人(カイル・ケラー)が、まだ来れない状況なんでね。若い選手がストッパーじゃなくて中継ぎのところに入ってこれたら、いいと思うんやけど。

 前田氏 具体的に名前は出てこないですか。

 矢野監督 そうやね。先発の中から誰か1人ぐらいは後ろにもってこないとなと思う。そこで争っている若いピッチャーがどれぐらい入って来るかなとか、桐敷(拓馬)というルーキーは使えると思うんで、どこで使おうかなとか。ただ、やりくりする層としてはあると思うんだけど勝ちパターンの確立までは、ちょっと現状は見えない。競争が激しくなればいいなあと思っているんやけど。

 前田氏 昨季は2位で悔しい結果でした。今年優勝するためには…。

 矢野監督 やっぱり競争がチームを強くする。去年は新人が3人、伊藤将司と佐藤輝と中野というのが出てきて競争が、だいぶ激しくなったからね。

 前田氏 佐藤輝明は前半頑張りましたが、中盤以降は苦しみました。

 矢野監督 逆に言うと、あそこまでよく打ったなと。キャンプからオープン戦まで新人で壁がないなんてなかなかない。いつまで続くんかなという感じで(見ていた)。これだけ対戦したら「どこにいけば打たれて、打ち損じがある、抑えられるのか」っていうのは徹底して攻められていく。インハイと低めのボール球っていうのが徹底的に攻められて、そこを意識して形も崩れていって…。

 前田氏 壁に当たった理由はそこですか。

 矢野監督 まだある。143(試合)やることも初めてやし。プロのピッチャーと対戦することもなかった。だから技術の部分も体力の面もいろんな部分が重なって、ドーンと落ちたというところにあるなと思う。

 前田氏 佐藤輝に何か助言はしましたか。

 矢野監督 テル(佐藤輝)にも言っているのは振る怖さはあるんだけど、振らない怖さがない。チョコ(前田氏)と俺がバッテリー組んでも、インハイいくやん。ボール球もいくやん。振るだろうなと思って振ってくれたら、俺らのペース。それ見逃すとか、振らないんだっていう怖さがない。

 前田氏 分かります。

 矢野監督 当たればホームランになるっていう怖さはバッテリーの中にはあるけれど。その段階。だから一番の魅力、振ることはやめてほしくないし、フルスイングだって続けていけばいい。けれども、ここからレベルをもう一段階上に来るためにはね。俺もいろんなバッターと対戦してきたけど、昔で言えば松井秀喜選手とかさ、やっぱり振れへん。『え、これ振らんの?』っていう中から、結局ゾーンの中に投げていかなきゃ仕方がない状況をテルがつくれるか。それは伝えてある。

 前田氏 あの…。ところで矢野さん、本当に今年で辞めるんですか。

 矢野監督 ハハハ、辞めるでしょ。辞めますよ。

 前田氏 開幕前に表明した理由は何ですか。

 矢野監督 まずは俺の覚悟を決めるという(こと)。いつまでも監督ができると思う1日を過ごすのと、キャンプの初日に来年ここであいさつしてないなって思うのと、気持ちの部分では全然違う。何かこう…やり切る監督として見本でいたいなというのがあった。だからもともと選手にもやっぱり後悔を減らす野球人生を歩むぞっていうのは伝えている。来年もやれる、再来年もまだ俺やれるって思っている選手なのか。あるいはウチやったら原口とかね、やっぱり病気もして、もう野球終わるんじゃないかとか、できなくなるんじゃないかとか思っている選手の一日一日ってやっぱり違う。

 前田氏 そうですね。

 矢野監督 平等に人にあるのは24時間という時間といつか死ぬっていうことしかない。現役いつまでもできないから、みんないつか辞めなあかんっていう時に、あれもこれもやっておけばよかったなっていう人生を俺は歩んでほしくない。やり切る1日を過ごしてほしいっていうのをこの3年間も伝えてきた。このタイミングで辞めると言うことは賛否両論あるのは受け止めている。でも俺は周りがどう言うかより、選手に何ができるか。選手に対して言ってきたことを実践できるかという覚悟を決めるためには、それを発表したほうが向き合っていける。この3年間、俺は本当に心のことばかり言ってきた。選手はめちゃめちゃ成長してくれてるから。今言っても大丈夫だろうと思い、伝えさせてもらった。

 前田氏 最初「何で?」と思っていましたが、よく分かりました。

 矢野監督 選手もそうあってくれると思っている。優勝を目指していくのは当たり前。でも勝つことだけを求めるっていうのはピンとこなくて…当たり前過ぎてね。だから、いい伝統をつくりたい。それで1年目から『自主性』って言っていたけど叩かれるわけね。『そんな甘いもので』って。でも俺は自主性こそプロだと思うし、今みんな自立して動けるようになってきている。勝った時も負けた時もグラウンドにあいさつして子供たちの見本で大人が礼をしてグラウンドを去る。そこまで格好よくいようぜっていうのも俺らの野球のいい伝統の一つ。他にもいろいろあるんやけど、それをやり切って日本一になるのが俺の目標で、そう考えるとワクワクする。

 前田氏 なるほど…。

 矢野監督 伝統の土台は3年間でしっかりつくれた。負けたら、この世界は何も言えなくなってしまう。そのために俺ら、こんなにいいチームでしょって言えるための優勝、日本一っていうのが必要。自分で言うのもなんだけど一丸となって、いいチームになってるから。

 前田氏 今年は矢野タイガースの集大成ですね。

 矢野監督 はい、やり切ります。ありがとうございます。