【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】奇をてらっているように見せかけて、やっていることは至極まっとう。日本ハムはビッグボスの思惑通りに「ポジション争い」が激化している。

 13日に行われた楽天との練習試合(金武)は2―6で対外試合初黒星を喫した新庄監督は「4番・石井(一成)くんどう? なんか打てる感じがしたんですよね」と取材陣が質問する前に自ら切り出すなど気分は上々の様子だった。

 4番に抜てきした石井は成長を示す本塁打で猛アピール。それも11日の阪神との練習試合の前、ビッグボス自らオファーした元広島で通算2119安打を誇る前田智徳氏の指南がハマったのだからうれしい限りだろう。

「前田くんが来る前のスイングっていうのはちょっとね(バットがボールの)下に潜り始めていたの。だからファウルになることが多かった。今はこういう(ボールを上から捉える)スイングに変わっているでしょ」

 指揮官は効果を感じ取っていた。前田氏から伝授されたスイングのイメージ。それを石井が試合で再現した。4回に楽天・西垣から右中間へ放った逆転2ランは鮮やかな恩返し弾となった。

 直球を待ちながら、力みないスイングで変化球に反応した。ひと皮むけた一発に、指揮官も「(前田氏に教わった)そのイメージで叩いたら『あっ、入った』って感じ。本人は力の入れ方は一緒だけど、バットの出し方であんだけ飛ぶんだというのが分かったんじゃないですかね」と笑いが止まらなかった。

 ただ明るくはしゃいでいるわけではない。監督としての思惑がある。ここ数年、日本ハムは遊撃手を固定できていない。その問題を解消しようと必死なのだ。

 この試合では「ガラガラポン」はなかったが、恒例の守備位置シャッフルは敢行。捕手の清水や宇佐見を三塁に起用するなど、遊び心は前面に出した。

 本職が遊撃の中島卓也とドラフト3位新人の水野達稀は外野でスタメン起用した。石井に代えて途中出場で細川凌平を遊撃に入れたことはガチの競争だ。シャッフルでカムフラージュしつつ、同じ試合に複数の遊撃候補を同時出場させ、競争心をあおった。

 新庄監督も阪神での若手時代に遊撃を守り、久慈とポジション争いを繰り広げたものだ。最後までリーグ優勝を争った1992年はオマリーの故障で三塁に回り、その後は中堅に入って不動のレギュラーを手にした。違った景色から得る経験。その尊さを知るからこその演出だろう。

 遊撃のレギュラー争いをさせつつ、外野で新たな適性もひそかに探るビッグボスのしたたかさ。この男の野球偏差値は計り知れない。

 ☆ようじ・ひでき 1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。