正義しかいない――。ソフトバンクの絶対エース・千賀滉大投手(28)が、23日に福岡・筑後のファーム施設で自主トレを公開し、沖縄・宮古島での合同トレーニングにも帯同した田中正義投手(27)とともに約4時間汗を流した。表向きは田中の志願参加だった合同自主トレだが、実際は千賀による抜擢帯同。なぜプロ入り5年間未勝利の田中なのか。千賀が語る「弟子の条件」と若鷹への痛烈なメッセージとは。

 練習公開後の取材で、千賀は自身の取り組みについて多くを語ることはなかった。最もエースの言葉が踊ったのは田中に関する質問の時。その対応に後継者育成への本気度がうかがえた。巷では2023年以降のメジャー挑戦が話題。事実、球団内外で千賀が〝旅立った後〟のホークスを気にかける声は多い。

 エース自身にも強い危機感がある。常勝を支えた強力な先発陣がここ数年、心もとない状況にある。そこに世代交代の遅れが輪をかけている。「僕らの世代がいなくなった時に、いなくなったら出てくるのか、そのまま終わっていくのか」。今オフ球団は新助っ人のチャトウッドを獲得。昨季、家族の事情で途中退団したレイの再獲得も早々にまとめた。ともに先発補強。実は千賀はこうも指摘していた。「日本人がダメなら外国人選手でつなぐというような状況が出てきたら寂しい」。危惧していた現実が想像よりも早く進行していることに憂いの気持ちは増すばかりだった。

 次世代のエース候補どころか、先発候補も出てこない。それはチーム内の共通認識だ。千賀は昨秋キャンプで東浜、石川ともこの危機意識を共有していた。そんな中で、エースが〝希望の光〟として白羽の矢を立てたのが田中だった。

 今回の自主トレ帯同は表向きは田中の志願参加。だが、千賀は誰でもOKのスタイルを取っていない。田中だから快諾したのだ。

「僕は『俺はできるんだ』とか『俺がちゃんとやればできる』って思っている人間は見ない。僕は常に自分に対して疑問を持ちかけている人間を見るようにしている。正義はそれがちょっとマイナスな方に振れすぎているけど、普通に自分を客観視できる。そして、常に立ち止まらないように前に進める人間。野球は失敗するスポーツだけど、同じ失敗を何度もする人間というのは何も考えていない。同じことを繰り返すのは結局、その人が『俺はできる』と思っているから。失敗の仕方を変えられる人間が強い。(正義は)そういう人間だと思う」

 弟子入りを快諾した昨年末、そう理由を明かした千賀。それはどこか田中以外の選手に放っているかのような痛烈なメッセージでもあった。

 この日もネットスローをする田中を呼び止め、身ぶり手ぶり助言を送った。鷹にとっては寂しい現実だが、心の底から「引き上げたい」と思える後輩をようやく見つけた千賀。「導いていかないといけない」。英才教育のゆくえに注目だ。