今季のオリックスを象徴しているのが、4番に定着して32本塁打を放った〝ラオウ〟杉本裕太郎外野手(30)の覚醒だ。

 プロ6年目の遅咲き大砲は昨季まで一軍通算出場がわずか76試合。190センチ、104キロという恵まれた体格を生かしきれずにいた。そんな未完の大器を一変させ、球界屈指の長距離砲へと導いたのが中嶋監督だった。

 二軍監督時代から杉本の潜在能力を高く買っており「力はある。腐らずにやればいいんだ」と言い聞かせた。杉本もその期待に応えるべく数年前から打撃修正に着手。どんな球にもフルスイングを心掛けていていた思考を一変させた。過去にイチロー氏との合同自主トレで伝授された「カウントが追い込まれてからは考え方を変えるべき」という教えに従い、確実性を高めることに尽力を注いだ。思考の変化と打撃の微調整が打率向上と本塁打量産につながった。

 今年5月11日の日本ハム戦(東京ドーム)後にはこう打ち明けていた。

「(イチロー氏との自主トレ前は)追い込まれても本塁打を狙っていたんですけど、『それをしていたら絶対に打てない。アプローチを変えないと絶対に打てない』と言われたので。それは今も印象に残っています」

 11連勝した6月には月間MVPに輝いた。〝とにかく明るい三十路砲〟の働きがチームの雰囲気を好転させたと言っても過言ではない。

 主軸を担ってきた吉田正の負傷離脱もあり、杉本へのマークは一層厳しさを増すことが予想される。それでも「今日打てたからといって、次の日に打てるとは限らない。常に(気持ちを)切り替えて打席に入りたい」と気持ちを引き締めるドラフト10位入団の苦労人がチームをさらなる高みへと導く。