巨人は20日、日本ハムの中田翔内野手(32)をトレードで獲得したことを発表した。球界が驚いた電撃移籍の裏にはどんな思惑、経緯があったのか――。

 中田は4日に行われたエキシビジョンマッチ・DeNA戦(函館)で、試合前に同僚選手1人に対して暴行を働いたとして、球団から出場停止処分を科されていた。栗山監督は16日に「正直、このチーム(で復帰すること)は難しいと思っている」と話していたが、それからわずか4日での電撃放出となった。

 実は遡ること14年前、2007年のドラフト会議で、大阪桐蔭の中田翔は〝幻の本命〟だった。「素材だけなら、あの年は中田が一番だった。ただなあ…」巨人関係者がつぶやいていたことを思い出す。

 巨人は特殊な球団だ。ドラフト候補をリストアップするのは球団スカウト、現場スタッフだが、フロント幹部へと上がった段階で親会社が〝身体検査〟に動き出す。球団が「いかせてください」と言ったところで、読売が「NO」なら獲れない。

 当時は原監督の第2次政権真っただ中。高橋由、二岡、ラミレス、小笠原、谷らそうそうたる顔ぶれだったが、打者としてはみな壮年期。次代を憂う指揮官や現場関係者は生え抜きのスラッガー候補、特に「右の強打者」を欲していた。ただ高校時代の素行に関する噂や周辺情報などがネックとなり、泣く泣く指名を見送った経緯がある。

 翌年、巨人は補強ポイントに合致する東海大相模の大田泰示(現日本ハム)をくじ引きで獲得に成功したが、入団後はなかなか芽が出ず苦しんだ。〝右の強打者獲り〟が悲願であったことは2009年ドラフト1位の長野久義(現広島)、2011年オフに、横浜(当時)からFA宣言した村田修一を獲得したことからも見える。

 ただ、時がたち巨人の事情はずいぶん様変わりした。当時は球団フロントと親会社の読売に絶対的な人事主導権があったが、今は名将の地位を確立した原監督が〝全権〟を振う。「監督は自身がそうだったこともあり、とにかく右のホームランバッターが好き。二岡、泰示、チョーさん、村田、彼らにはときに愛情あふれて厳しく当たったこともありますが…。それに栗山監督はかわいい〝弟分〟ですし、今回も『クリ、俺が面倒を見るよ!』ということだったんでしょう」(巨人関係者)

 中田はこの日、東京・大手町の巨人球団事務所で入団会見を開き、「今回、みなさんに迷惑をかけてしまったので反省しています。本人もそうですし、ファンの皆さんを裏切ってしまったことに今は後悔であったり、反省しています。すみませんでした」と深く頭を下げた。

 出直しを誓う大砲を受け入れる度量が、今の巨人にはある。だが背中には今まで以上に厳しい視線が注がれる。「目をかけた選手ほど、鬼になるのが監督の性。生半可な覚悟では、あっという間に見切られます。チャンスはもらえるはずですから、あとは姿勢と結果でどれだけ示せるかですね」(前同)

 なお、日本ハムから科されていた出場停止処分は20日で解除となることが発表されている。