【大下剛史 熱血球論】2年目を迎えた佐々岡カープは前半戦を30勝42敗10分け、借金12の5位で終えた。特に6月は負けが込み、4日の楽天戦から14日の西武戦まで引き分けを挟んで8連敗。同月下旬の5連敗で最下位に転落する屈辱も味わった。

 4月にエースの大瀬良が故障で戦列を離れ、5月には主砲の鈴木誠をはじめとした主力9選手が新型コロナウイルスの陽性判定を受けて離脱を余儀なくされる不運もあった。それでも負けが込めば監督は非難される。私の知らないインターネットの世界では、聞くに堪えない罵詈雑言があふれていたと耳にした。

 自分がKOされてマウンドから降りるときに飛んでくるヤジと、監督として負けた後に浴びせられるヤジでは聞こえ方も違う。佐々岡監督も相当にこたえたのではないだろうか。かつて同じユニホームを着て戦った仲間として、私も心を痛めていた。

 しかし、もがき苦しむ中で、佐々岡監督は多くのことを学んだように見受けられる。前半戦の最後を今季最多の4連勝で締めた戦いぶりを見ていて、采配に落ち着きが出てきたようにも感じた。

 ご存じの通り、現役時代の佐々岡監督は先発、中継ぎ、抑えとフル回転で「打てるものなら打ってみろ」という負けん気の強さと圧倒的な力で相手をねじ伏せてきた。持って生まれた身体能力の高さも含めて、唯一無二の存在だった。ただ、たとえプロ野球選手であっても、そんな選手ばかりではない。

 初めて監督をして、この点で悩む者は多い。自分で何もかもできた人ほど理想は高く「どうしてやらないのか」「どうしてできないのか」と、もどかしさを感じるからだが、最近では佐々岡監督も「選手も人の子」と割り切れるようになったのではないだろうか。

 カープは伝統的に投手力を中心とした守りの野球で、少ないチャンスに足を絡めて勝ってきた。理想を追うより、地味でも堅実な野球でコツコツと積み重ねた方が、かえっていい結果につながるもの。選手だって指揮官のスタンスが定まれば働きやすくなる。

 そもそも佐々岡監督は現役時代からファンに愛されてきた男だ。苦しい戦いを経て、人間的にも成長した。五輪休み期間を有効に使って後半戦に臨めば、おのずとチームは上昇していくはず。ファンの皆さまにも、ぜひ温かく見守っていただきたい。

(本紙専属評論家)