〝阿部流〟指導が光った。巨人の原辰徳監督(62)が13日に東京・大手町の読売新聞東京本社を訪れ、山口寿一オーナー(64)に前半戦の報告を行った。その中で、山口オーナーは若手選手の台頭を高く評価。育成の立役者は阿部慎之助二軍監督(42)だろう。若手へ急成長を促す〝プレッシャー教育〟の舞台裏では、鬼軍曹の並々ならぬ熱意が垣間見えていた――。


 13日のヤクルト戦(東京ドーム)は、先発・サンチェスが3被弾を含む2回4失点KOとなるなど計7被弾で6―14の惨敗を喫した。

 その試合前の午前中には、日程上の都合などから原監督がひと足早く前半戦の戦いを山口オーナーに報告。開幕からアクシデントが頻発し、現在も菅野や梶谷ら主力が離脱中と苦しい状況は続いているが、前半戦を2位で折り返すことが確定した。原監督によると、山口オーナーは若手の奮闘ぶりを高く評価していたといい「(名前が)具体的に出たのは大江、松原、あるいはビエイラ」だったことを明かした。

 そんなオーナーの賛辞に、指揮官はこう返したという。「阿部二軍監督の努力のたまものでございます」。この日の総帥の口からは前出3選手の名前が挙がったが、全体的な若手選手の底上げが成功していることを原監督も評価した格好だ。

 就任2年目となった鬼軍曹は、今年の春季キャンプでも若手を徹底指導。一軍より1時間半も早く練習が始まれば、全体練習後は夜間練習を行い、ヤングGをみっちりと鍛え上げた。一方で、技術指導だけでなく、精神面も強固にする〝プレッシャー教育〟にも力を注いでいた。

 今季のキャンプは、コロナ禍により無観客で実施。常々「プロ野球選手は見られてナンボ」と語っている阿部二軍監督にとっては受け入れがたい現実となってしまったが、決して指をくわえて見ていたわけではない。球団関係者は「阿部二軍監督は選手のため、最後の最後まで有観客での開催をお願いしていました。『なんとか選手の家族だけでも入れてやってくれないか』と訴えていたんです」という。

 実際、キャンプ中には複雑な胸中を明かしていた。「見られて、ファンに喜んでもらったりするのがプロの仕事っていうのを(若手に)教えてあげたいから…。でもね、こういう世の中になっちゃったから仕方ない。もちろん残念だよ」。さらには「『プロ野球のキャンプって、コロナがある前は(お客さんの数が)すごかったんだぞ』というのを(新人選手らに)分からせてあげたかったよね。『すげぇんだぜ、ジャイアンツは』って」と、一人の巨人軍の先輩としての熱い思いも語っていた。

 ファンに選手を見てもらいたい――。その一心からか、同じくキャンプ中には記者へこんなアプローチもかけてきていた。「何か(ネタが)あったっけなあ」。わざわざ立ち止まり、10秒ほど熟考した末に「やっぱ、ねぇや」と去って行ってしまったが、指揮官自らヤングGたちを売り出し、注目を集めさせようとする熱意が伝わるひと幕だった。

 阿部二軍監督の徹底した教育方針の元、日々行われてきた小さな積み重ねが、若手選手たちの急成長につながっているのかもしれない。