【今週の秘蔵フォト】1976年の年明け早々、ランニングに精を出すのは巨人に移籍した張本勲だ。厚着しているのはおそらく汗をかきやすくするため。ユニホームではないのに巨人の帽子をかぶるのはちょっとばかり珍妙だが、新たなスタートにかける強い思いの表れだろう。

 巨人は長嶋茂雄監督就任1年目の75年、球団史上唯一となる最下位に沈んだ。苦境を脱するために大型補強に手を染めるのは、今も昔もこのチームのやり方だ。長嶋監督の「ワンちゃんとコンビが組める大砲が欲しい」という要望で11月25日、高橋一三と富田勝を放出し、日本ハムの張本勲を獲得した。

 長嶋監督からは「ウチに来たからってかみしもは着るな」と、必要以上に気負わないようアドバイスをもらったが、やはりそうもいかない。東映・日拓・日本ハムでの17シーズンで、首位打者を7度獲得した安打製造機もすでに35歳。長嶋監督の期待に応えようと思えば、自然に体が動く。

 トレードが正式決定する前から自宅で素振りを行い、手にはマメができている。さらに「早めにランニングなどを始めようと思っている」と年が明けると徹底して走り込んで、2月のキャンプに臨んだ。そのおかげか、76年は首位打者こそ中日・谷沢健一にわずか1毛差で譲ったが、自己最多の182安打を放ち打率3割5分5厘をマーク。77年も打率3割4分8厘と打ちまくり、チームのセ・リーグ連覇に貢献した。(敬称略)