超異例の動きだ。ソフトバンク・王貞治球団会長(81)が9日、ウエスタン・中日戦(タマスタ筑後)を視察。18時開始のペイペイドームでの一軍戦があるにもかかわらず、筑後での二軍ナイターを視察したのには特別な理由があった。

 関係者は口を揃えた。「一番の目的はアイツを見るため」。8日から二軍に合流した上林誠知外野手(25)の直接視察だった。天性の打撃センスにほれ込み、事あるごとに助言を送ってきた秘蔵っ子。鷹の未来を担う〝眠れる逸材〟を案じていたに違いない。福岡市内から片道約1時間の場所にある筑後。さらに一軍ナイターの裏で開催される二軍ナイター視察という異例すぎる行動に、現場も驚きを隠せなかった。

 そうまでしても直接伝えたいことがあった。「自分の打ち方を変えるのは自分の顔を変えるくらい難しいこと。自分を責めすぎるなよ。ボールをよく見て、見えたボールだけ打ちなさい」。シンプルに25歳の心中を思いやりながら優しく語り掛けた。

 バックネット裏から熱視線を受けた上林は快音を連発した。第1打席、山井の初球141キロ真っすぐを捉えると、糸を引くような弾道で中堅フェンス直撃の二塁打。打つポイントを前にして、その後も左二塁打、右前打を重ねた。これには王会長も「少し気持ちが楽になったんじゃないかな。まずはそこが楽にならないとね」と、我がことのように安堵した。

 上林は、柳田とともに「王会長を本気にさせる男」として知られてきた。今回の二軍緊急視察もその証拠。上林は「何も言われなくなったら寂しい。心からありがたいことだと思っています」と感謝した。上林に「明日も来るからな」と伝えた王会長。世界の王が、かつてないエネルギーで〝施し〟を加える。