【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】フルスイングを貫いた名球会のアーチストも認める逸材だ。新人ながらセ・リーグ3位タイの10本塁打、同2位の32点。阪神・佐藤輝明内野手(22)にテレビ画面越しに熱視線を送るのは、近鉄、ドジャース、中日などで日米通算2106安打、404本塁打を記録した中村紀洋氏(47)だ。

 近年は「プロ野球を見ていてもつまらなくなったね。ワクワクするような選手が少なくなった」が口癖だったが、佐藤輝に話題が及ぶと「見るのが楽しくなってきたよ。これで野球ファンも増えるやろね」と声色が変わった。

 現在、浜松開誠館高野球部で非常勤コーチを務めているが、もちろんプロ野球にも目を光らせている。その中でも「フルスイング」をモットーに掲げた新人が言葉通りに結果を出しているとなれば気にならないわけはない。本物の長距離砲の出現でNPBチェックの楽しみが増えたようだ。

「ええバッターやと思うよ。今年1年間はバンバン失敗したらいいよ。あんまり悩まんようにと、アドバイスしたいね」。本人がこだわる本塁打、飛距離への探究心。勝敗でチームの命運が分かれるような場面を除いては自分の打撃にこだわってもいい。現役時代に「俺は全打席、ホームラン狙ってたよ」と豪語した中村氏の言葉だけに説得力がある。

 注目球団の阪神に在籍していると、とかく〝外野〟が騒がしくなったりする。OB、評論家などから、さまざまな声が漏れ聞こえくることも珍しくない。だが、中村氏は「どうせ打率がどうこうとか言われる時がくる。それでも、そこに耐えられるかどうかやね」と力説する。ときに周囲の雑音を受け流す忍耐強さも大事というわけだ。

 詰まることを恐れず自分のスイングを続ける。相手に合わせる必要などない。これに関してはキャンプの早い時期から矢野監督が「うらやましいよな」と評価していた。

 中村氏もそういう部分に大きく魅力を感じており「今のスタイルを貫いてほしいね」と言う。

 今でも野球ファンの間では「ノリ=フルスイング」と記憶されている。自分のスタイルを貫いてきた男だけに、次世代のモンスターに送るエールも力強い。

☆ようじ・ひでき=1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。