【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】自らの失策が大量失点につながり敗戦――。それがスポーツ紙をはじめとしたメディアで大きく取り上げられることは珍しい。通常はヒーローが大きく扱われるものだ。

 決勝点を献上したわけでもなければ、大一番での世紀の落球でもない。さらに言えば、当該選手がルーキーであればなおさら、やり玉に挙げる必要もない。

 それでも〝事件〟は起きた。23日の阪神―DeNA戦(甲子園)での出来事だ。1―3の5回一死満塁、右翼に入った佐藤輝明(22)が神里の右前打を後逸。ボールがフェンスまで転がる間に、打者走者まで生還させる〝グランドスラム〟のプロ初失策を記録した。

 ゲームの大勢は決し、チームは今季初の3連敗。これを在阪の各スポーツ紙は大きく報じた。一昔前なら大々的な記事は関西だけで止まった。だが、現代ではネットニュースもこぞって情報をアップする。ユーチューブ検索ワードでは「佐藤輝明 ホームラン」に次いで「佐藤輝明 エラー」が表記されるほど多くの野球ファンが関心を示した。

 失策までもが大きく取り上げられてしまう現象…。この状況を見ていて2006年の阪神を思い出した。リーグ優勝を果たした前年には5番を打ち、チーム記録の147打点を挙げた今岡誠(現在=真訪・ロッテ一軍ヘッドコーチ)を襲った出来事だ。

 当時の今岡は右手の故障をかばいながら05年同様に「5番・三塁」で開幕スタメン。だが、打撃不振に陥り、敗戦の際には戦犯とされる記事が増えた。さらには守備でのミスの際にも、大きな見出しと写真付きの記事で叩かれる日もあった。

 当時、今岡は32歳。若き天才打者から「ああいう扱いはないんじゃないですか」と球団広報を通じクレームを受けたこともある。デスクからの指示。そう言い訳してもいいが、事実とはいえ無責任だ。そのときは某球団OBの言葉を借りてこう説明した。

「ヒーローではなく『打てなかった』『ミスをした』で記事になるのは巨人か阪神のスター選手に限られる。叩かれるようになれば一人前」と。

 甚だ身勝手だとは思うが、この言葉に一理あると思う野球ファンも少なくないだろう。

 そう考えれば1年目の佐藤輝はどうだ。デビューから1か月を待たずして「失策」で大きく取り上げられた。そして翌日には、プロ初の3安打で4打点を挙げ、汚名返上してみせた。

 これからどんな武勇伝と時々の(?)大失敗を見せてくれるのか。楽しみは尽きない。

☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。