1450日ぶりの本拠地勝利は〝リアル二刀流〟でつかんだ。阪神・藤浪晋太郎投手(27)に聖地の勝利の女神もついにほほ笑んだ。今季甲子園初先発となった16日のヤクルト戦。6回途中まで無失点と先発の責務を果たしただけなく、5回に自身3年ぶりとなる決勝アーチを放って2勝目を挙げた。チームも6連勝で12球団一番乗りで貯金10。ノリノリのチームに右腕がさらにインパクトを与えた。

 この日から着用の「ウル虎イエローユニホーム」で藤浪は「きょうは本業で反省すべきことが多かった」としながらも、粘りの投球で先発の責務を果たした。5四死球と〝荒れ〟はしたが、6回二死まで本塁を踏ませなかった。

 さらに両軍無得点の5回二死二塁の先制機では、ヤクルト・石川から左中間へ3年ぶりアーチとなる先制2ラン。試合のハイライトには藤浪がいた。

 2017年4月27日DeNA戦以来となる甲子園での勝利でのヒーローインタビューでは〝リアル二刀流〟となる劇弾を「大阪のおばちゃんみたいなユニホーム着ているので、何とかしぶとくいってやろうと」と奇抜な戦闘服にかけ「ドン引きです(笑い)」と、値千金弾を9日の佐藤輝の場外弾のときと同じコメントを放ち、聖地の猛虎ファンから大喝采を浴びた。

 関西人らしくお茶目に振り返ったが、もちろん「やることをやった」からこその節目の勝利でもある。12日に27歳になった直後の登板で得た今季2勝目は、投打での貢献を予兆していたかのような調整で臨んできた。

 14日の試合前練習では登板前最後のブルペン投球を終えた後、グラウンドで練習中の野手に1人で合流。野手が行っていた走塁練習に飛び入り参加した。糸原、大山の2人に交じり、打撃投手の投球モーションをもとに一塁から二塁へスタートを切り、猛然とスライディングまで敢行。まさかの盗塁練習を行った後、二塁からはフリー打撃中の外野フライを見て、三塁へのタッチアップ想定したダッシュを繰り返した。二刀流挑戦を思わせる、登板直前の投手とは思えない異例のアクション。だが、これこそ「今年の藤浪が変わってきたところ」とチーム事情に詳しい関係者は絶賛する。

 伏線は7回2失点で今季初勝利を挙げた9日のDeNA戦にあった。藤浪は9番打者でプロ入り後、最多の3犠打を記録。このうちの一つが大量6得点につながり、自身の初勝利を決定的にした。「もちろんこれまでも、頭では分かっていただろうけど、登板後に改めて『何できょう勝てた?』と振り返ったとき、ただ投げて、打者を抑えるだけが先発の仕事じゃないと。それで自分を勝たせる確率を高められることも身をもって知ったんじゃない?」(前出関係者)

 試合後、藤浪も「投球は褒められたものじゃなかった」と開幕以降では最も不安定な内容だったことを告白。それでも「9人目の打者」として最低限の役目をこなせばクオリティーの低い投球をした日でも勝つことができる。突然の「野手化」はそんな矛盾に自ら答えを出し〝行動〟を起こしたものだろう。

 藤浪はこの日、3回にも投手陣最多の今季4本目の犠打で本塁打以外にも、打者としての役割をきっちり果たした。勝つためにできることはやり尽くす。27歳になった剛腕は「ただ投げるだけの投手」から「チームを勝たせる投手」へと確実に変貌を遂げてきている。