プロ野球が26日に開幕。注目カードとなったのは「悩める剛腕」こと阪神・藤浪晋太郎投手(26)が初の開幕投手を務めた、ヤクルト―阪神戦(神宮)だ。3年ぶりの先発白星こそつかなかったものの、5回2失点でチームの開幕勝利に貢献した藤浪には「今季こそはちょっと違うぞ…」との予感が漂っている。


 何とも〝惜しい〟気持ちになったのは本人だけではないだろう。最速152キロの剛速球は確かにキレがあり、開幕投手ならば誰もがナーバスになる初回を3者凡退と最高の立ち上がりを見せた。

 それだけに2、4回と課題でもある対右打者に計4四球、さらに暴投などの自滅の形で味方から先にもらっていた援護を2度、守り切れなかった点を、藤浪は素直に悔いた。5回103球2失点の結果に「粘れた点は良かったですけど、反省すべき点はありますね。もう少し長いイニングを投げないと…」。開幕戦勝利に湧き返るナインの中で試合後、藤浪は冷静に振り返った。

 ただ一方で、復活の予感は周囲も確実に感じ取っていた。かつての野球での輝きと同様、本来持ち合わせていたはずの明るさと、おおらかな人柄を同僚にも垣間見せる場面が増えていたためだ。

 2月のキャンプを見たOBのひとりは、ブルペンでひとり、居残りで投球中の藤浪とブルペン捕手との〝やり取り〟で、確信したという。

 その様子は一見すると「ふざけてんの?」と思われるぐらい砕けたもので、藤浪はオヤジギャクを連発しながら、腕を振りまくっていたという。

 ブルペン捕手のミットに自慢の剛速球が収まり「OK!」の声がブルペンに響くたびに、右腕は「牧場!」とガッツ石松の決めセリフで雄叫び。最後は「ラスト3球、行きます!」と自ら宣言。つられた捕手も「ハイ、ラスト3つ!」と呼応すると、すかさず「(ミッツ)マングローブ!」と不敵な笑みとともに捕手へむけ、見たこともない握りを掲げ〝特殊球〟を予告。26歳の若者がまさかのオヤジギャクの〝連投〟で、場の空気はかなり冷え込んだものと思われるが、とにかく本人はノリノリだったという。

「もともとああいう性格というか、これが本来の晋太郎。こういう心境で投げれていることが大事なんですよ。少なくとも、ここ何年かの『次の球が思うように投げれなかったら…』みたいな精神状態で投げていたとしたら、こうはならない。高卒新人で2桁勝つぐらいだから、プロで投げ抜く技術は持っているし、それはそんなに簡単に失うものでもない。その技術を意識せずにコンスタントに出せる精神状態さえ戻れば、また普通に勝ちだすはずですよ」

 かつて巨人のエース・桑田真澄(現巨人コーチ)は、マウンドでブツブツ独り言を口にする「つぶやき投法」で敵の打者を牛耳ったが、虎の剛腕も好調時は、その精神状態が口からあふれ出るということなのか。

 藤浪の場合は、それが瞬時に繰り出されるオヤジギャクに出る傾向にあるのだろう。初の開幕投手にも「いい精神状態で臨むことはできました」と振り返った藤浪。今後、自信を取り戻せば取り戻すほど、マウンドで〝絶口調〟になる姿が見られそうだ。