急がば回れということか。ふくらはぎの不調で出遅れていたソフトバンクの千賀滉大投手(28)が、12日の教育リーグ・中日戦(タマスタ筑後)で初実戦に臨んだ。最速は159キロに達し、2回無失点。それでも工藤公康監督(57)はエースの公式戦投入を早くても4月6日の日本ハム戦(札幌ドーム)に設定した。慎重の上に慎重を期す指揮官の腹の内とチーム事情とは――。

 いきなり圧巻の投球だった。千賀が今季初登板で2回を1安打2四球無失点の投球を見せた。最速159キロ。計測表示された直球全てが154キロ以上だった。

 ふくらはぎの不調でキャンプからリハビリ組で調整を続けてきたが、心配はなさそう。鷹のエースも「最近の疲れ具合から今日はそんなにスピードは出ないと思っていたけど、それなりに出ていて、ずっと出力も良かったのでボチボチかなと思います」と手応えを口にした。

 となると、次に気になるのが公式戦の一軍登板日。昨季は右前腕部の張りで開幕に出遅れていた中で、ファームでの100球超えの登板を飛ばして“球数制限付き”の状態で復帰。見事に白星を挙げた。今年も2カード目のオリックス戦で開幕ローテに間に合わせる可能性も残っていた。

 しかし、これに一貫して慎重だったのが工藤監督だ。決定権が完全な一軍マターとなる中で、ついにこの日は「もう消してます」と明言。「制限がない状況で上がってもらうのが基本的な考え」とし、現在は“最速パターン”が4月6日の日本ハム戦(札幌ドーム)となっている。

 昨季のローテと比べても先発の柱だった東浜とムーアがいない。一刻も早く頼れるエースに帰って来てほしいはずだが、それでも時間をかけさせたいのはなぜなのか? 昨季フル回転した救援陣に指揮官が一抹の不安を感じているからだろう。

 まだモイネロがオープン戦に登板しておらず、岩崎の状態も良くない。盤石の体制で開幕できるか不透明で「勝ちパターンができていて、そこを厚くできるというのであれば、多少球数の問題があったとしても上げることはできるが、そこが僕の中でまだ分からないので」と工藤監督は話す。

 昨季は自粛期間明けに開幕したこともあり、先発投手の調整を不安視。開幕当初は故障を防ぐために球数やイニングをあえて抑えた。その分、第2先発を設けるなど後ろを手厚くしてスタートさせた。球数制限があっても圧倒的エースを投入することは戦略上の意味も大きかった。

 今季はその逆。すでに先発陣には「長いイニングを投げてほしい」と通達済み。「7イニングくらい行ってもらえたら」との思いも持っている。幸いにも頭数は足りており、まずはしっかり調整できている先発陣に任せて、千賀には完投もできる“完全体”で戻ってもらうことが連覇への青写真というわけだ。

 フロント内では昨年のリーグVの要因に、異例のシーズンとなった中での指揮官の投手陣の運用を挙げる声もあった。今季もしっかりリスクマネジメントした上で準備を進めている。