【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】ツバメのレジェンドが将来の名球会候補に極意を伝授している。ヤクルトの沖縄・浦添キャンプでは14年ぶりの“古巣復帰”となった元監督の古田敦也臨時コーチ(55)が話題だが、この重鎮も忘れてはいけない。元日本一監督で通算2173安打を誇る若松勉臨時コーチ(73)だ。

 キャンプ第1クール最終日の3日から、ヤクルトでは連日にわたって超豪華なランチタイム特打が実施されており、メンバーは日米通算2478安打の青木宣親(39)にソフトバンクから新加入した通算2171安打の内川聖一(38)、それに1506安打の坂口智隆外野手(36)、1153安打の山田哲人(28)で「7308安打カルテット」を形成している。

 無観客というのがもったいない限りで、いずれもシーズン最多安打のタイトルホルダー。その中でも若松氏が目を付けたのは自身と同じ左打者の坂口だった。

 今年の七夕で37歳となる坂口は通算2000安打まで494安打。40歳になる2024年までシーズン平均120安打ペースを保てば、名球会入りも射程に入る。

 そのために坂口には何が必要なのか? 打撃練習後に身ぶり手ぶりで示した若松氏の指導は簡潔だった。

「追い込まれた場合は狙いをアウトコースに絞って、インコースにきた場合はさばくようにしてみれば、と。それができる選手だと思っているから」

 もちろん簡単な技術ではない。一定のレベルをクリアした選手にしか伝えない助言だろう。加えて若松氏の頭には、それを裏付けるデータもあったはずだ。

 元来、坂口は早打ち。浅いカウントでの打率も高い。その半面、追い込まれた状況は苦手だ。昨季は2球目までにスイングした際の打率が3割8分台なのに対して、2ストライク後は1割4分台と数字にも表れている。

 さらに昨季は内角球の打率が2割9分台後半だったが、外角は2割2分台。つまり若松氏は、追い込まれた状況では外角球の対応に重点を置き、内角球がきた場合には自然体で反応していこうと提案したわけだ。

「追い込まれてからの(意識するコースの)目付けだね。これまではインコースでも、無理に引き付けてレフト方向に打とうという傾向があったように見えていたからね」

 レジェンドの言葉は的確だ。坂口は機密事項とあって「考え方の部分でアドバイスをいただきました」と多くを語らなかったが、練習ではコースに逆らわずライナー性の打球を連発している。

 昭和の安打製造機から注入されたエッセンスをどう生かすか。坂口の今後の調整、シーズンでの打撃が楽しみだ。

 ☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。