【赤坂英一 赤ペン!!】「まさか、こういう形でまた球界から声がかかるとは、思ってもいませんでした。本当に自分でもびっくりしています」

 オリックスの宮崎・清武キャンプで再会した入来祐作二軍投手コーチ(48)、こう明かしてマスクの下の口をほころばせた。

 巨人時代は外国人選手との乱闘も辞さない暴れん坊で、現役晩年は日本ハムからメジャーリーグにも挑戦。引退後は一転して、DeNAの用具係やソフトバンク二、三軍コーチなど黒子や裏方に徹し、2019年にユニホームを脱いだ。そして、今年から新たにオリックスで指導に当たっている。

「どうして僕にオファーが来たのか詳しいことは分からないです。ただ、中嶋監督、福良さん(GM)、中垣さん(巡回ヘッドコーチ)は、現役時代に日本ハムで一緒にやっていましたから声をかけてもらえたのかもしれませんね」

 しかし、受諾するまでは熟考を重ねたという。

「二つ返事とはいかなかったです。僕は去年までの2年間、ソフトバンク球団のアカデミーで子供たちに野球を教えていました。ホークスで学んだ知識や技術を子供たちに伝えて、給料を頂ける。毎日心穏やかで、なんて幸せな仕事だろうと思っていたほどですから。こんな自分が戦いの場にまた戻れるのか。ましてや最近のオリックスは成績も良くない。ここを強くするために、僕がどれだけ力になれるのか、それは悩みました」

 最終的には、そうした迷いを吹っ切ってコーチに就任。ソフトバンクでの指導者経験が生きるのでは、と少しずつ手応えを感じ始めているという。

「オリックスの若手には粗削りな選手が多い。球の力はある。その半面、まだ自分の体を思い通りに動かせていない。そのためには、まず体をしっかりつくって、体を自分のイメージ通りに動かす再現性を高めていく必要がある。それを若い選手に理解させるには、僕がどういう言葉を使うべきか。いまは毎日そういうことを考えています」

 そう言われてみると、ドラフト1位ルーキー・山下舜平大の投球練習は時々高めに抜ける球があり、自分の体を思い通りに使えていない印象を受ける。

「しかし、球の力自体はすごい。やはり別格です。だからこそ、先発ローテに入るには、
しっかりと動かせる体をつくることが必要だと思うんです」

 そう語る入来コーチの指導理論は、まるでPL学園の先輩、巨人・桑田投手チーフコーチ補佐のようでもある。ちなみに、新人で最も体の使い方が優れているのは育成ドラフト1位・川瀬堅斗だという。彼をはじめとした原石を入来コーチがいかにして磨きをかけていくか、いまから楽しみだ。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」「プロ野球第二の人生」(講談社)などノンフィクション作品電子書籍版が好評発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。日本文藝家協会会員。