【広瀬真徳 球界こぼれ話】1月末から沖縄でキャンプ取材を行っている。首都圏や関西圏と同様、沖縄も新型コロナウイルス感染拡大に伴い独自の緊急事態宣言を発令中。この影響で春季キャンプを行う選手たちだけでなく報道陣も「不要不急の外出は避けるように」と球団側から要請されている。

 昨年までならこの時期は懇意にする選手、球団関係者らと飲食をともにしながらシーズンに向けた抱負や裏話を聞いていた。今年はそれがなく、主な行動は宿泊ホテルと球場の往復だけ。たまに立ち寄るコンビニや弁当屋が息抜きの場に感じられるのだから、キャンプ取材の醍醐味は失われつつある。

 もっとも、そんな行動制限だけならストレスはさほどたまらない。厳戒態勢下のキャンプ取材で最もつらいと感じるのは定期的に行われる「PCR検査」だ。周知の通り、今キャンプは取材陣もPCR検査の陰性証明書がなければ取材はおろかキャンプ地に入ることすら許されない。各球団でルールは様々だが、楽天ならキャンプ地来場72時間以内の陰性証明書の提示が必須。このため球団施設等で定期的にPCR検査を受ける必要があり、これで毎回神経をすり減らす。

 唾液を採取する検査自体は5分程度で終わる。問題はその直後から検査結果が出る翌日まで。発熱や咳、味覚や嗅覚等に異変がなくても、無症状での陽性判定はあり得るので油断ができない。仮に陽性判定となればその時点で即刻取材活動は中止。保健所の指示に従いホテルか病院での隔離生活を余儀なくされる。それどころか現場をともにする選手や球団関係者、周囲の報道陣にも迷惑をかける恐れがある。そう考え始めると「もし陽性だったら…」という不安が脳裏から離れなくなってしまうのだ。

 すでにPCR検査を3度受診。全て陰性だったにもかかわらず、いまだ検査後の不安感に慣れることはない。いや、回数を重ねるたびに緊迫度合いが増しているのは気のせいか。

 この思いを先日、ある球団の親しいコーチに電話で伝えると「俺たちや選手も昨シーズンから検査を受けるたびドキドキしている。その気持ち、本当にわかる」と同情気味に話してくれた。同時に「結果が出るまでのあの独特の不安は何度検査を受けても変わらないから。頑張って耐え続けるしかないな」とも。

 新型コロナの感染防止対策とはいえ、今後も避けては通れないPCR検査後の憂鬱時間。安心と引き換えに寿命は確実に縮んでいる…。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年、愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。