【赤坂英一 赤ペン!!】「現役時代の斎藤雅樹を思い出しますね。そんな雰囲気を感じませんか?」

 巨人キャンプの初日、ブルペンでドラフト1位・平内龍太(22=亜大)の投球練習を見ている最中、そう話しかけてくる旧知の関係者がいた。なるほど、そう言われれば、背番号11をつけた平内の体格は、同じ11を背負っていた「平成の大エース」斎藤に何となく似ている。

 平内は185センチ、90キロで現役時代の斎藤は181センチ、90キロ。背番号11は、斎藤が2001年に引退してのち、斎藤よりもスリムな久保が継承。その後、上原や山口俊などもつけたが、いずれも長続きせず。そうした変遷を経て、斎藤の引退からちょうど20年後の今年、最も斎藤そっくりの体形を持つ新人・平内が受け継いだわけだ。

 その平内の“キャンプデビュー”を、首脳陣もまた大いに盛り上げた。

 宮本投手チーフコーチが、カメラマン席に最も近いレーンで投げるよう平内に指示。さらに、原監督も最初は捕手・大城の後ろ、続いて平内本人の背後でじっくりと投球内容を視察。最高の“絵作り”のお膳立ての中、力強く171球を投げ込んだのである。

 そこで思い出されるのが、斎藤が背番号11を背負っていた1998年のキャンプのことだ。いまとは違うブルペンで斎藤が投球練習を始めると、長嶋監督が捕手の後ろに立ち、大声を出して斎藤をあおったのである。

「ほらあ、斎藤! 何だ、その程度か! もっと力を入れてこい、もっと!」

 両手を振り上げ、招き寄せるようなしぐさをしたかと思うと「もっとだ、もっと!」と四股を踏むようなアクションも披露する。100球を超えたあたりから、長嶋監督の猛ゲキはさらにエスカレート。こうなると、あおられた斎藤も、ひたすら投げ続けざるを得ない。

 いまでも忘れられないのは、斎藤に声をかけた直後、長嶋監督が私たち記者に見せたイタズラっ子のような笑顔だ。斎藤を指さして「う~ん、喜んでる喜んでる。斎藤は喜んでるねえ」と言うのである。「喜んでるのは監督のほうでしょ!」とツッコミたかったが、もちろん言えなかった。

 こうして、長嶋監督にあおられまくった斎藤の球数は優に200球を超えたはずだ。斎藤には予定外の球数だったそうで「監督、早くどっかに行ってくれよとずっと思ってたよ」と苦笑い。

 前年97年はわずか6勝と4年ぶりの1桁にとどまった斎藤はこの98年、10勝を挙
げて復活する。が、これが現役時代最後の2桁勝利となった。

 背番号11にはそんな「平成の大エース」の汗と涙がにじんでいる。投手としてのタイプも投げ方も違うが、平内も「令和のエース」を目指して頑張ってほしい。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」「プロ野球第二の人生」(講談社)などノンフィクション作品電子書籍版が好評発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。日本文藝家協会会員。