【平成球界裏面史 阪神世界一編(1)】今や万年Aクラス争いのチームと化している阪神だが、シーズン4位に泣いた平成16年(2004年)は“世界一”を決めている。

 開幕直前の3月29日、敵地・東京ドームで松井、ジーター、A・ロドリゲスらそうそうたるメンバーで来日した名門、ヤンキースと対戦。阪神は何と19安打の猛攻で11―7と快勝し、日本の球団としては史上初めてヤ軍に土をつける“歴史的勝利”を決めたのだ。

 ヤ軍はこの年、日本でデビルレイズ(現レイズ)とのMLB開幕戦を行うためやってきており、前日28日は巨人を難なく6―2で撃破。ナインの仕上がり具合はまさにバッチリという「ガチンコ対決」を阪神が制したものだから、それはそれは大いに盛り上がった。 
 余談ながら当時の虎番連中は「米国のメディアに笑われるからそれだけはやめとこな」と再三“談合”し合ったのに翌日の紙面は全紙とも1面で「阪神世界一!」…。1回勝っただけで節操のない話だが、それでもジーターらヤ軍ナインから「日本最強のチームは松井がいた巨人ではなく阪神ではないのか」など絶賛され、岡田監督は「歴史的勝利? それは知らんかったけど光栄や」と満面の笑みを浮かべた。ランニング本塁打を決めた矢野(現阪神監督)は「やる限りは勝ちたいと思っていた。1日だけでも世界一だ!」と名言を残して大喜びした。

 ネット裏のスコアラーもこの日の試合をビデオ収録しており、平塚打撃コーチは「せっかく世界最高レベルの打者が集まっているのに利用しない手はない。特に右のロドリゲス、左の松井はタイミングの取り方など実に参考になる」とバイブル扱いにし、今後に役立てようと大はしゃぎだった。ヤ軍退治は阪神にとって4月2日に迫る巨人との開幕戦に弾みがつくものとなったが、実は「番外戦」でも巨人を〝圧倒〟している。

 この日、メンバー交換を終えた試合直前にヤ軍の名将、ジョー・トーリ監督が突如、一人で阪神ベンチを訪問。始球式の登板を控えていた星野SD、岡田監督とミニ会談し「アメリカから持ってきました。シーズン頑張ってください」と2人にヤ軍の主力ナインが寄せ書きした貴重な記念サインボールをプレゼントしたのだ。前日28日の巨人戦ではトーリ監督のそんな行動は一切なし。一体どういうわけか? キーマンは星野SDだった。

 3月初旬から約3週間にわたってメジャーキャンプを視察し、現地ではトーリ監督と食事をともにするなど好関係を築き上げていたのだ。ヤ軍は巨人と長年、業務提携を結んでいるが、星野SD独自のパイプづくりの「成果」でもあったのだろう。球団幹部は「アメリカに行って遊んでると見せかけて、実はしっかりと情報を集め、仕事をするのが星野流。今回もタダでは帰ってきていない」と証言している。当時の巨人監督はというと「青天のへきれきです」の迷言で就任した堀内恒夫氏。そっちではなく、アウェーの阪神に世界の名将がわざわざ足を運んでくるのだから見事、試合前から〝差〟をつけた格好だ。

 試合後の星野SDは「袋叩きにしたな。あの程度の投手なら打てるだろうよ。日本の野球もこれだけ上がったと向こうもビックリしてるだろう。勝負事は負けるより勝つ方がいいな」と上機嫌。気をよくした虎ナインもその後の開幕・巨人戦を3連勝している。「世界一効果」は大きかったのだろう。

 一方、この試合でメジャー移籍を完全に決意した男がいた。 

 =続く=