無双エース流出危機は免れたものの、新たな難題――。巨人からポスティングシステムでメジャー移籍を目指した菅野智之投手(31)の残留が8日に正式決定し、ひとまず夢舞台への進出はお預けとなった。現場サイドとしては、日本屈指の最強右腕の残留はこの上ない吉報だ。その一方では悩ましい問題も…。新たに締結する今季年俸が日本人選手最高額の6億5000万円を更新することが確実で「緊縮財政」を敷く球団の金庫が〝パンク危機〟に陥りそうなのだ。 


 絶対エースの決断はリーグ3連覇と9年ぶりの日本一奪回を目指す原巨人にとって「最大の補強」と言えそうだ。球団によると、菅野は交渉期限となった日本時間8日の午前7時を待たずに今オフのメジャー挑戦を断念し、自ら巨人残留の意思を伝えてきたという。

 新型コロナ禍が日本以上に深刻な米国内にあっては、今季の通常開催も不透明。元日に渡米し、代理人を通じて交渉してきた菅野は「MLBの今シーズンの動向などを見極めた結果、今季も読売巨人軍でプレーしようという結論に至りました」と今回の挑戦を断念した経緯を説明した。関係者によると「どこでプレーするにしてもアスリートとして1年間投げ続けたいが、それを見通せないなら…との思いもあったようだ」という。

 紆余曲折を経ながらも、今季のG投の軸は固まった。FAでは梶谷隆幸外野手(32)と井納翔一投手(34)に加え、新助っ人としてメジャー通算196本塁打を誇るジャスティン・スモーク内野手(34=前ジャイアンツ)、同じく96発のエリック・テームズ内野手(34=前ナショナルズ)を獲得。菅野流出を見据えつつ、2年連続で日本シリーズ4連敗を喫した屈辱を晴らすべく、球団の補強への本気度は相当なものだった。

 その矢先に、海の向こうから舞い込んだ絶対エースの〝電撃復帰〟。球団にとってある意味ではうれしい誤算となったが、今後の菅野との契約で悲鳴を上げるとみられるのが、球団の〝金庫〟だ。かつては球界内で「金満球団」などと嫉妬めいた言葉で揶揄されてきたが、それも今や昔。他球団からすれば現在も資金力が豊富な巨人でも以前から選手の総年俸費には上限が設けられてきた。ましてや、昨年はコロナ禍の影響で大幅減収。球団関係者によれば、経営陣から引き締めの号令が発せられ「50億円程度」がリミットに設定されているという。

 そんな中で、来季契約が未更改の菅野を除く新助っ人や新加入したFA戦士を加えた現有戦力の推定総年俸は約42億円。菅野は昨オフ、日本人選手としては史上最高額となる〝ハマの大魔神〟佐々木主浩氏(2004&05年)に肩を並べる6億5000万円で更改した。ただ、昨季の菅野はプロ野球史上初となる開幕13連勝の金字塔を打ち立て、最終的に最多勝(14勝2敗)と最高勝率(8割7分5厘)の投手2冠となり、堂々のセ・リーグMVPにも輝いた。

 6億5000万円からの上積みは決定的で、米メディアの中には巨人サイドが菅野側に1年ごとに契約を見直すことが可能な「オプトアウト」の条件を盛り込み、4年4000万ドル(約41億5000万円)を提示したとの情報もある。単純計算で単年ベースにならせば、ついに「年俸10億円」を突破し、〝デッドライン〟を超えてしまうが…。

 いずれにせよ、〝ジャパニーズドリーム〟への夢は膨らむものの、コロナ禍の緊縮財政のなかで経営陣は無双エースをどう受け入れるのか。ない袖は振れない。どう切り盛りしていくのか、今後が注目される。(金額は推定)