【広瀬真徳 球界こぼれ話】このオフ、球界ではサイ・ヤング賞右腕のトレバー・バウアー投手(29=レッズFA)の「日本移籍」が一時話題になったが、来日を視野に入れる大物メジャー選手は彼だけではない。旧知の編成担当に先日、年末のあいさつを兼ねて外国人選手の動向を尋ねるとこんな話を教えてくれた。

「昨年10月ごろから外国人選手の売り込みが積極的です。数年前なら絶対にあり得ないような大物選手の代理人からも駐米スカウトを通じて連絡が来るようになりましたから。スカウトも驚いていましたよ」

 外国人選手の日本でのプレーといえば、一昔前まではいわゆる「都落ち」。現役メジャーリーガーが自ら日本行きを熱望することは珍しかった。ところが、昨今は実力ある日本人選手のメジャーでの活躍や日本で実績を残した外国人選手のメジャー復帰が増加していることもあり、日本球界の評価は想像以上に高まっている。そこに昨年来のコロナ禍である。日本も感染拡大が予断を許さない状況とはいえ、1日で数万人規模の感染が日常的な欧米諸国に比べれば恵まれている。プロ野球も現時点では来シーズン、有観客での開催が予定されている。こうした背景から現役メジャー選手が相次いで来日を模索するのも無理はない。

 もっとも、大物外国人選手による日本への興味に対し、日本側が対応に苦慮している点を忘れてはならない。

 前出の編成担当によれば、外国人選手が来日に意欲的でも話し合いの前面に立つのはやはり代理人。「本人の意向を重視していても最終的には金銭面の話になる。簡単には折り合いがつかない」と交渉の難しさを漏らす。

 加えて最近の外国人選手は「複数年契約」を前提に交渉を持ち掛けてくるようで、球団側も大物獲得に自然と慎重にならざるを得ない。

「日本では昔から外国人選手を“助っ人”と呼ぶように、来日1年目から結果を期待する。でも、最近は日本の野球レベルの高さを選手、代理人も理解しているため『1シーズンでは短い』と、最低でも2年以上の長期契約を要求してくることがほとんどです。年俸が安い選手ならまだしも、高年俸選手を複数年契約で抱えることは球団としてもリスクが高い。今年に関して言えばコロナの影響で球団の補強資金も絞られています。そうなると大物選手から興味を示してもらっても球団側としては手放しで喜ぶわけにもいかないのです」(前出編成)

 今や日本球界は外国人選手の「出稼ぎ場」ではない。実績あるメジャー選手も長く日本で現役生活を続けたい気持ちが強まりつつある。その思いに対し球団側が妥協点を見つけどう受け入れていくのか。両者の溝はまだ深いだけに、大物選手の来日ラッシュはもう少し時間がかかりそうだ。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年、愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。