【ID野球の原点】走りづらい近鉄・神部も執念で分析 ブレイザー流クセ盗み5つのポイント

2020年12月31日 18時00分

近鉄・神部のけん制には「世界の盗塁王」こと阪急・福本も手を焼いていた

【ID野球の原点・シンキングベースボールの内幕(8)】野村克也氏の代名詞とも言えるのが、データを重視した「ID野球」。その原点となったのは南海時代にドン・ブレイザー氏が日本に持ち込んだ「シンキングベースボール」だった。「ブレイザーの陰に市原あり」と呼ばれた側近の市原實氏が、2007年に本紙で明かした内幕を再録――。(全16回、1日2話更新)


 近鉄の左腕・神部年男もクセが見つからず、走りづらい投手だった。それでも「クセのない投手はいない」というブレイザーの執念で、ようやくクセを発見した。

「軸足となる左足のかかとが7~8センチの高さで上がったときがけん制で、3~4センチのときがホームだ!」。けん制の際に大きくかかとを上げたのは、その間に少しでも走者のリードを誘おうという無意識の行動だったろう。だが、これを実戦で生かすのが難しかった。「かかとの高さが低い」と判断してからスタートしたのでは、タイミングが遅くなってしまうからだ。しかし、それであきらめてしまうブレイザーではない。徹底した分析で別のクセを発見した。

「セットポジションに注目してくれ。セットに入る際にグラブの位置が高いときがけん制、低いときがホームだ!」。神部のセットポジションはベルトの位置でグラブを止めていたが、捕手のサインをのぞき込み、グラブを止めるまでの動きに違いがあった。けん制の際はアゴのあたりからグラブが下りてきてベルトで止まる。投球の場合はそのグラブがヘソの上から下りてきてベルトへ…。ドンピシャリだった。

 ブレイザーのクセ盗みには、天性の才能もあるだろうが、彼がクセを見破るために注目した主なポイントは、だいたい以下の5つだった。

 ①投球時に踏むプレートの位置、セットポジションの足の幅、つま先の開き具合、顔の位置。

 ②サインを受けた後のグラブの動き、グラブの開き具合、顔の表情。

 ③振りかぶった際にボールを持った手が体の横を通るとき、ボールの白い部分が見える大きさ。手首の角度。

 ④振りかぶった際にボールを持った手が頭の上にきたとき、ボールの白い部分が見える大きさ。手首の角度。

 ⑤ボールをリリースする瞬間の手首の角度。

 ①で分かる単純なタイプの投手は最近では見られなくなったが、当時はまだいた。②のタイプで分かりやすかったのはフォークボールだ。ボールを挟む動作をするためグラブが微妙に開く。ただ、このクセは初歩的なもので、さすがに今ではほとんどの投手が修正されている。

 ③~④は「投手のシルエットを全体像としてとらえた場合、どこかに違和感を感じないか」で見分けることができた。対応が一番難しいのは⑤だ。どんな一流の投手でもここで出てしまうクセは隠し切れなかったが、球種を瞬時に判断して打つためにはかなりの練習が必要だった。

 そうして頭脳野球を大きな武器としていった南海は、次なる戦略に打って出る。それが野村の巧みな交渉術による「トレード」だった。=敬称略=


 ☆いちはら みのる 1947年生まれ。千葉県出身。県立千葉東高―早稲田大学教育学部。早大では野球部に入部せず、千葉東高の監督をしながらプロの入団テストを受験し、69年南海入り。70年オフに戦力外通告を受け71年に通訳に転身する。79年に阪神の監督に就任したブレイザー氏に請われ阪神の守備走塁伝達コーチに就任。81年にブレイザー氏とともに南海に復帰すると、89年からは中西太氏の要請を受けて近鉄の渉外担当に。ローズ、トレーバーらの優良助っ人を発掘した。ローズが巨人に移籍した04年に編成部調査担当として巨人入団。05年退団。

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