今年の日本シリーズもソフトバンクが4勝0敗と巨人を一蹴した。パ・リーグが8年連続で日本シリーズを制し、これでは巨人に辛酸をなめさせられたセ・リーグの各球団も浮かばれない。リーグの実力差はそんなにもあるのか…。31年前のシリーズで大騒動を巻き起こした〝問題発言〟も話題となる中、緊急検証の第3回は本紙評論家・前田幸長氏が登場。果たして2020年の巨人は「ロッテより弱い」のか――。


【巨人惨敗 セはパに勝てないのか③:前田幸長】「巨人はロッテより弱い」。このフレーズが大きな話題となったのは1989年、巨人―近鉄の日本シリーズだった。近鉄・加藤哲郎の〝発言〟に「バカにしやがって」と奮起した巨人が3連敗から4連勝するわけだが、逆に弱いチームの引き合いに出された当時のロッテの選手たちもまた「バカにされた」と思ったのだろうか。

 本紙評論家でロッテOBの前田幸長氏は「ぜんぜんバカにされたとは思わなかったですよ。むしろ『そのとおりだ。加藤さん、よくぞ言ってくれた』と。当時のボクはルーキーでしたが、ほかの先輩たちでもそんなことを言う選手は誰もいませんでした。あのころのパ・リーグの選手はみんな『セのやつらに負けるか』と思ってやっていましたからね。それぐらいセとパの間では扱いに格差がありました」という。

 球場には閑古鳥が鳴き、メディアの扱いにも天と地ほどの差があった。
「ボクが完封してもベタ記事ですからね。たくさんのお客さんの中でプレーしたいという思いは、当時のパの選手なら誰もが心のどこかに持っていたと思います。実際、ボクが中日に移籍して、ナゴヤ球場の満員のお客さんの中で投げたときは『これがセ・リーグか。よーし!』と気合が入ったものです」

 その後、前田氏は巨人にFA移籍。「あのころの巨人には常に勝たなきゃいけない。絶対に優勝するんだという雰囲気がありました。メディアの注目度はむちゃくちゃ高くて、そういうプレッシャーもあって、やっぱり巨人は特別な球団なんだというのを強く感じましたね」

 ただ、今の時代は当時とは大きく状況が変わった。

「はっきり言いますが、今は巨人が中心の時代じゃなくなりましたね。巨人じゃなくても選手は目立てるし、セ・リーグじゃなくてもすごい選手は注目してくれる。お客さんもたくさん入るようになったし、目立つには巨人に入ったり、セ・リーグに行ったりしなくてもいいわけです。ドラフトでも普通にパ・リーグ志望の子だってたくさんいる。時代の流れの中でこういう部分でのセとパの格差がなくなったことも、きっかけの一つじゃないでしょうか」

 逆にパとセの間に圧倒的な格差ができたとは前田氏も見てはいない。

「もしも今年、ロッテが日本シリーズに出てきたら? ボクは4勝3敗で巨人が勝つと予想するつもりでした。そのロッテだってソフトバンクにシーズンでは勝ち越している。どうにもならないほどの格差はまだ、ついてないと思うんですよ。ただ、今はソフトバンク中心の時代になりつつあって、ソフトバンクがかつての巨人のような存在になりそうですけどね」

 巨人を倒そう、セ・リーグをやっつけようから、ソフトバンクを倒せ、パ・リーグをやっつけろという時代へ――。セにその危機意識が生まれなければこの流れは加速しそうだ。