今年の日本シリーズもソフトバンクが4勝0敗と巨人を蹴散らした。最強王者は盤石ぶりを見せつけ、球界の盟主はなす術なく2年連続の屈辱を味わった。パ・リーグが8年連続で日本シリーズを制し、これでは巨人に辛酸をなめさせられたセ・リーグの各球団も浮かばれない。リーグの実力差はそんなにもあるのか…。緊急検証の第2回では本紙専属評論家・伊原春樹氏が要因の1つに「オーナーの熱量の差」を挙げた。

【巨人惨敗 セはパに勝てないのか②:伊原春樹】今年の日本シリーズも大方の予想通り、ソフトバンクが巨人を圧倒して4年連続日本一となった。選手層の厚さ、個々の能力はヨソと桁違いで、そこにはもちろんスカウティングや育成面の良さもあるだろう。

 私が見ていて感じたのはオーナーの情熱だ。どの球団のオーナーも熱い思いをお持ちだろうが、思えば巨人V9時代の正力亨オーナー、西武黄金期の堤義明オーナーには人一倍の情熱があった。ソフトバンクの孫正義オーナーもそうだ。「何としても日本一になる」という球団の指針を打ち出し、キャンプからそこを目指して突き進む。フロントと現場が一丸となって日本一、世界一へと頑張っている。

 オーナーにもタイプがあって「カネも口も出す」「口は出すが、カネは出さない」など様々だが、強いチームを作り上げたオーナーは総じて「カネは出すけど口は出さない」タイプだ。豊富な資金力でいい選手を獲得し、あとは現場を信頼して預ける。ユニホーム組としてはこれほどやりやすい環境はなく、試合に集中できる。どことは言わないが、オーナー自ら「こうしなさい」「あの選手を使いなさい」などと言えば、監督はどこを向いて野球をしているのかということになる。

 堤オーナーだってたまには社長を通じてのお叱りはあったが、現場が困るようなことは一切なかったし、とにかく「巨人に負けるな」の情熱がすごかった。巨人だって常にセで優勝争いができているのは今も初代オーナーの正力松太郎さんから受け継がれる指針が踏襲されているからだと思う。

 セとパにはレベルの違いもある。球の速い投手が多いパに対し、セの投手は数えるほどしか名前が出てこない。初戦で菅野が千賀に勝ったとしても石川、ムーアのようなタイプはセにいないし、CSなしでいきなりそんな相手とやっても対応できない。たとえ最下位のヤクルトとオリックスが戦っても山本、山岡相手にヤクルトは勝てないだろう。

 今回に関して言えば、全試合DH制だったことも影響したと思う。シーズンを通して1番から9番まで気を抜けない戦いを続けるソフトバンクに対し、DH制のないセの巨人は8番・捕手、9番・投手だとどうしても気が抜ける。その緊張感は全然違うものだし、パの投手がタフになっていく要因でもある。日本シリーズでは2013年の第6戦で巨人が楽天に勝って以来、ずっとDH制でセ球団は負け続けている。シーズンで経験できていない差が大きいということだ。(本紙専属評論家)