【独占手記:巨人 阿部二軍監督】突然のヘッドコーチ代行指名…気付かされた原監督の凄み、僕との野球観の違い

2020年10月31日 05時15分

原監督の決断力のすごさには心底驚かされた

 激動の2020年だった。未曽有の新型コロナ禍の中でのシーズン、巨人のリーグ2連覇は原辰徳監督(62)の采配はもちろん、一軍に多くの戦力を送り込んだ阿部慎之助二軍監督(41)の功績も大きい。9月中旬にはまさかのヘッドコーチ代行に抜てきされ、指揮官の〝右腕〟として多くの帝王学も吸収した。指導者として初めて歩んだ一年で何を感じ、何を得たのか。未来の監督候補が本紙に寄せた独占手記で思いをつづった。


 優勝、おめでとうございます。二軍で頑張っていた選手が一軍で活躍する姿は頼もしく見えたし、喜ばしく思います。口酸っぱく、いろいろなことを言ってきたけど、少しでも役に立ったのならうれしいな。

 二軍監督としては、いろいろ考えさせられる一年だった。思い通りにできたこともあれば、そうでなかった点もある。良かったなと思える点は、キャンプで効率よく練習できるように改革できたこと。だけど、若い選手たちとの付き合い方は永遠のテーマだな。どう伝えたら奮起を促せるのか。選手によって何も言わない方がいいのか、それとも怒った方がいいのか…。そんなことばかり考えていた。

 その中で、選手たちにはメモをつけることを心掛けさせてきた。人間だからどうしても忘れてしまう。コーチから言われたこと、自分がやりたいこと…。書くことでより記憶に残るし、見返した時に思い出せる。今後に生かしてほしい。

 二軍は「若手の育成の場」にしたい思いがあった。ただ、一軍が開幕すると入れ替えも激しくなり、落ちてきた選手にもまた一軍で頑張ってほしいから試合に出さないといけない。そうすると、若い選手のチャンスがなくなってしまう。だけど、ウチには三軍がある。二岡三軍監督とも相談し、澤村や陽岱鋼たちにも三軍に行ってもらった。

 三軍は試合数も少ない。澤村にはその練習だけの時間を使って自分を見つめ直してほしかった。技術的なこともあっただろうけど、僕は精神的、心の部分が大きいと思っていた。「抑えなきゃ」という気持ちばかりになっていて…。持っているものはすごい。トレードが決まって送り出す時に「もうひと花咲かせてプロ野球人生を終えてほしい」と本人にも伝えた。

 一軍に選手を送るためには、誰が落ちてくるのかを予想する必要もあった。連敗が始まれば入れ替えも活発になる。次はこの選手だな、なんて考えていた。野手については僕の方でやらせてもらい、時間がある時は投手も宮本投手チーフコーチに直接推薦させてもらったこともあった。ただ、基本的には投手は投手コーチ同士。例えば、二軍で先発予定だった選手が急きょ一軍で先発することになっても、僕は当日の朝に知らされてもいい。原監督から「情報共有はしっかりしなさい」というお達しもあり、僕も柔軟な考えを持たないとダメだと思って「事後報告で構わない」と伝えていた。

 そして、ビックリすることも起きた。9月16日から10月1日までのヘッドコーチ代行。平塚での二軍戦前に原監督から電話で東京ドームに呼ばれた時は「エッ…」と思った。いきなり交代のタイミングをミスしたりもしたけど、14試合で9勝5敗。とにかくチームが勝ち越せて良かった…。

 スタメンは相性だったり、いろいろなことがあるけど、試合前日までに決めなければいけない。僕とコーチ陣でまとめた意見を監督に持って行き、それを尊重していただいた。いろいろなことをスッとできてしまう元木ヘッドコーチもすごいなと思った。

 初日に原監督から「慎之助らしく」と声をかけていただいたのは〝僕の野球観をどんどん出していいよ〟というメッセージだったと思う。言いだしやすい環境をつくっていただき、本当にありがたかった。

 その中で原監督にお願いしたこともあった。今季は個々の負担を減らすために控え選手もフルに使ってきたけど、選手たちに聞いてみると「6イニングで交代しても、フル出場しても体力的にはあまり変わらない」という意見もあった。それは伝えさせてもらいました。

 また、今の野球は何があるか分からない。9月16日の阪神戦(東京ドーム)では、7回まで7―0でリードして8、9回で6点を取られた。東京ドームでは6回で交代させると相手の攻撃が3回ある。その時に僕が感じたのは、終盤に追い上げられてアタフタしたくないなということだった。

 いろいろ勉強させていただいた中で、原監督の決断力のすごさには心底驚かされた。同時に、原監督と僕の野球観の違いにも気づかされた。9月29日の広島戦(マツダ)もそう。リードを3点に広げた6回二死二塁での吉川尚の打席で、相手が左投げの中村恭に代えてきた。吉川尚は左の方が強いから、僕は次の松原のところで「代打・ウィーラー」と考えていた。

 でも、原監督は吉川尚にスパッと代打でウィーラーを送った。これは僕の頭にはなかった。ウィーラーはそれまで25打席無安打。そのウィーラーを使って、適時二塁打をパーンと打たせちゃうんだから「すごい」としか言いようがない。原監督も「早く一本打たせてあげたい」と言っていたから、そういう思いがあったのかもしれない。その決断力はすごく勉強になりました。

 二軍監督が決まった当初、奮起してもらいたい気持ちをあえて「期待できる若手はいない」という厳しい言葉に変えた。それは現役の時から、恵まれた環境でユニホームを着て満足をしているように見える選手もいたから。一軍で活躍する大変さは僕が分かっている。「このままじゃダメだ」ということを最初に教え込みたかった。

 二軍の選手は、厳しい練習だけでなく食育などにも取り組んでいる。寮生には絶対に食べなければいけない決め事もある。「もう1セット食っちゃえよ」なんて思いながら見ているけど、成長していく姿を見られることは指導者冥利に尽きる。ファームの栄養士さんにも感謝。僕も勉強しながら成長していきたい。

(巨人二軍監督)