【原巨人Ⅴ2】悲願成就! 巨人は30日のヤクルト戦(東京ドーム)に3―3で引き分け、マジック対象チームの阪神が引き分け、中日が敗れたため、2年連続38度目のリーグ優勝を飾った。新型コロナ禍による前代未聞の2020年シーズンを乗り越えられたのは、何よりも原辰徳監督(62)の辣腕だろう。監督通算勝利数も伝統球団の歴代最多記録を更新し、名実ともに巨人史上最強監督となった。試合では勝負の鬼と化す一方で、内面はますます円熟味が増し、ついには〝聖人〟の域に達しつつある。


 指揮官として自身9度目のリーグ制覇。歓喜の瞬間を迎え、スタッフらの手で9度舞った原監督は山口オーナーと笑顔で抱き合い、喜びをかみ締めた。優勝監督インタビューでは「この1年の長いペナントレースを象徴しているような苦しいゲーム」としみじみ振り返り、コロナ禍で戦った野球人全員の奮闘をたたえた。

 今季は新型コロナの猛威で、すべてが一変した。選手たちは満足な調整ができないまま、史上最も遅い6月19日に開幕。その中でも個々の負担を軽減させるチームマネジメントなども奏功し、首位をぶっちぎった。7月に恩師である長嶋茂雄終身名誉監督の「1034勝」の記録を超え、9月には歴代1位だった川上哲治監督の「1066勝」も更新。長嶋終身名誉監督をして「原監督は、まさにジャイアンツの歴史を塗り替えた一番の名将となった」と言わしめた。

 もはや巨人監督の実績で右に出る者はいない。今も白星を重ねるたびに新記録を更新し続けているが、それと同時に実は原監督の〝聖人化〟も進行している。監督通算14季目ともなると、見える世界も変わってくる。巨人の枠にとらわれた「飼い殺し」をやめ、12球団を一つととらえながらトレードを活性化させたのも、その一例と言える。さらに独特な感性に加え、度量の大きさも常人には計り知れないレベルになりつつある。

 春先の東京ドームで正午過ぎから行われた、ある練習日でのひとコマだった。指揮官がグラウンドに姿を見せたタイミングでは偶然、まだ照明がついておらず、まずは「何だ、経費削減か!」とジョークを一発。そのままふと視線を向けたのがドームの天井だった。場内が薄暗かったことで、日差しに照らされた天井の汚れがかえって目立ったためだ。すでに開場33年目。開場当時に比べれば真っ白とは言い難い状態だが、指揮官に言わせればこうなる。

「これは汚いんじゃない。歴史だ! 年輪のようなもの。人間だってそうでしょう。シワができるんだから」。経年劣化であったとしても汚れをも「歴史」と受け止めるのが原監督だ。

 極め付きはこれだ。思いやりの心は球界内にとどまらず、生きとし生けるものすべてに及ぼうとしている。その〝究極形〟とも言えるのが、日本人の多くが毎年悩まされている「花粉」だ。当時は花粉シーズン真っただ中。本紙記者が鼻をすすりながら原監督に悩みを打ち明けると、想像をはるかに超えた答えが返ってきた。

「花粉だって生きようと思って一生懸命なんだよ。あれ(子孫)を世に残そうと思っているんだからさ。花粉の身になってやれよ。花粉は大変な使命を持って生きているわけだから」

 そう語った原監督も何を隠そう、れっきとした花粉症持ちだ。自身にとっても厄介な〝敵〟のはずだが…。人間とも距離が近い犬や猫などの動物や昆虫たちを慈しむ人は多いが、簡単には目で見えない花粉まで思いやれるのは、世界広しといえども原監督ぐらいだろう。

 ついには、万物をも受け入れようか…という勢いの包容力を見せる〝最強監督〟。次なる使命は2012年以来、8年ぶりの日本一奪回だ。