【インハイ アウトロー 加藤伸一】いろんな意味で、ソフトバンクのリーグ優勝は「数の勝利」と言っていいだろう。最終的には圧倒的な力の差を見せつけたが、規定投球回に到達した投手は皆無。野手にしても開幕からコンスタントに出場し続けたのは柳田、栗原、甲斐の3人ぐらいだった。

 それでも勝てたのは、選手の数と層の厚さが他球団と段違いだったからだ。春季キャンプ時で言うと、来日すらしなかった外野手のコラスも含めて支配下登録66人に育成選手24人。この大所帯で切磋琢磨し、競争を勝ち抜いた選手たちが過去の実績に関係なく、チームを支えた。

 ソフトバンクの強さを語る上で必ずキーワードとなるのが「育成」だ。主力選手を見渡してみてもエースの千賀に石川、シーズン序盤の苦しい台所事情を先発として支えた二保、セットアッパーのモイネロ、正捕手の甲斐、盗塁王を決定的にしている周東にユーティリティープレーヤーの牧原が育成出身。もはや彼らの働き抜きにチームは成り立たない。

 その選手たちを育てるスタッフの数もライバルを圧倒している。今や各球団が育成選手を抱えているが、パ・リーグで三軍に監督をはじめ各部門のコーチがいるのはソフトバンクだけ。他球団で育成選手を指導する立場にいるスタッフは2~3人程度なのが実情だ。

 スカウトの眼力が優れているのも確かだが、放っておいては選手も育たない。今年は新型コロナウイルスの影響で誤算も生じたが、例年なら三軍は地元社会人や大学、四国アイランドリーグ、韓国遠征などで80試合を消化する。その中でフロントの定めたマニュアルに沿って、選手はそれぞれのランクごとに課せられた打席数や投球回をこなす。教わるだけでなく実戦で経験を積み重ねるからこそ選手は育つのだ。

 ソフトバンクでは日報などを一~三軍で共有しており、コーチ間で報告書の優劣を意識することもあれば、二軍が一軍と三軍の板挟みになるなど気苦労は絶えない。それでも全スタッフが同じ方向に突き進んでいけるのは、一軍が優勝すれば苦労も報われることを知っているからだ。フロント主導で導入されたデータ分析担当もしかり。ライバルに先駆けたアイデアの数でもソフトバンクは他の追随を許さない。セ・リーグでも同様の三軍組織を持つ巨人が独走した。多くの人が多くの知恵を出し合い、多くの苦労を経て多くの喜びを得る――。プロ野球界が新たな時代を迎えたことを実感させられた一年だった。