ソフトバンクV奪回! 悩める工藤監督支えた王会長の言葉「煙たがられたっていいじゃないか」

2020年10月27日 21時45分

王球団会長、孫オーナーと並んでバンザイするソフトバンク・工藤監督(右から2人目)

 悲願のリーグV奪回を成し遂げたソフトバンク・工藤公康監督(57)。12球団ダントツのチーム防御率、最少失点で守り勝つ「王道野球」を展開し、自身3度目の優勝監督に輝いた。就任6年目。表向きは順風満帆に見えるが、その裏では悩みを抱え続けての戦いでもあった。そんな指揮官を支えた存在が王貞治球団会長(80)。工藤監督の迷いを振り払いVロードへと導いた「王の言葉」とは――。


 シーズン終盤こそ大型12連勝で首位を独走したが、それでもやはり苦しいシーズンだった。3年ぶりの歓喜の瞬間も、コロナ禍の影響で胴上げはなし。この日の試合も2位ロッテに9回に意地を見せられ、我慢に我慢を重ねて白星をつかんだ。試合後の工藤監督は「絶対勝ちたいという気持ちで始まったシーズンだった。新型コロナウイルスの影響もあって、いろいろ難しかったけど、選手たちがよく調整してくれてよく頑張ってくれた」と目を潤ませながら、勝利の喜びを口にした。

 2015年、17年に続く3度目のリーグ優勝。これまでと違う達成感があったはずだ。

 時代は令和へと移り変わり、昭和、平成の時代を駆け抜けてきた指揮官は、選手との〝距離感〟に戸惑いを感じていた。「人間だから、誰しも嫌われたくないっていうのがどこかにあると思うんだ。自分でも分かっているんだけどね…」

 実力者集団を束ねる難しさはかねてあった。心が離れては組織として真にまとまらない。「選手に1年でも長くユニホームを着続けてほしいというのがあるから、ついね…」。踏み込みすぎると煙たがられる。だが、遠慮しすぎてもいけない。

 組織の上に立つ人間ほど、苦悩や弱みを見せられる相手は少ない。2年連続でリーグ優勝を逃し、葛藤があった。

 そんな中で昨年、王会長に招かれた食事の席。チームマネジメントにおける迷いや悩みを打ち明け、王会長の言葉に背中を押された。

「煙たがられたっていいじゃないか。きっと選手は、君が言っていた意味や真意を理解する時が必ず来る。僕もそうだったし、君もそうだっただろ? 辞めた後、10年後、20年後、あの時に言われた意味がこうだったんだと分かれば、それでいいじゃないか。選手のことを思ってやってるんだったら、君が培ってきたもの、信じてきたものを思う存分に伝えたらいい」

 信じる道を進んだ。春季キャンプから「実力主義」を掲げ、シーズンに入っても勝つ確率の高い用兵を重視。最後まで貫き通した。ベテラン、外国人ら実績組にも容赦ないタクトを振り、経験の浅い若手も同じ物差しで優劣を測り積極的に起用した。オーダーは12球団最多104通りにも及んだ。

 その根拠を生む準備には全精力を注ぎこんだ。グラウンド外では福岡でも遠征先でも全く外出せずに〝完全巣ごもり状態〟で野球のことを考え続けた。

「今年は絶対に勝たないといけない。このコロナ禍という中であったとしても、しっかり自分たちがシミュレーションして考えないといけない。選手に実力主義と言って、いつもと変わらない生活をしていては説得力がない」

 個人の時間はすべて映像やデータを見る時間に割いたといっても過言ではなかった。

 王会長は遠征先の千葉や札幌などにも激励に訪れた。工藤監督は「ご心配をおかけして申し訳ないと思っている。本当にありがたい。会長からお預かりしたチーム。なんとか…(強くしたい)と思っている」。

 最強軍団を率いての3年ぶりのリーグV奪回。「王の言葉」に支えられ、日本一4連覇、さらにその先へと突き進む――。