竜のエースならぬ〝令和の大エース〟だ――。中日の大野雄大投手(32)が22日のDeNA戦(ナゴヤドーム)に先発し、無四球6安打9奪三振の好投で今季6度目の完封を飾り、5年ぶりの2桁となる10勝目(5敗)をマークした。これで連続無失点を45回まで伸ばし、連続イニング無失点の球団記録を64年ぶりに更新。そんな無双状態の左腕を巡っては、今オフFA大争奪戦となることが必至の状況だが、球団内では流出阻止のための〝秘策〟が叫ばれている。

 大野雄はいったいどこまで進化するのか。2試合連続完封勝利で、チームを本拠地8連勝へと導き、貯金は今季最多の7となった。防御率はリーグトップの1・79。9月15日広島戦(マツダ)の2回から続けている連続イニング無失点は「45」まで伸び、1956年、大矢根博臣の40回1/3の球団記録を実に64年ぶりに更新した。巨人・堀内恒夫の44回も抜いてセ・リーグ歴代5位。45回以上無失点を続けたのは2011年のダルビッシュ(当時日本ハム=46回)以来となり、プロ野球歴代12位となった。

 お立ち台で「今日だけは褒めてください!」と訴えた大野雄は「本当にしんどい。ゼロに抑えることは素晴らしいと思う。それを目指して投手はやっている。ゼロに抑えたら負けない。菅野投手も開幕から13連勝していて勝利とイニングは違うが、こんな感じで本当に毎週しんどかったんだなと思う。今日は疲れたなっていう感覚だった」と本音をポロリ。沢村賞も十分に視野に入る成績だが「狙って取れるもんでもない。あと何試合投げられるか分からないけど、とにかくチームのために腕を振りたい」とフォア・ザ・チームを強調した。

 与田監督は「雄大に尽きる。もう、すごいのひと言。勝負どころで絶対点をやらないという気持ちが伝わった。こんな緊張感ある試合はなかなかない」とエースの快投に脱帽するしかなかった。

 まさに中日を支える大黒柱だが、懸念は7月31日に取得した国内FA権。昨オフの契約更改で球団は7000万円アップの単年年俸1億3000万円と3年契約で4億円近い条件を提示したが、大野雄は単年を選択した。そのため球団内では「大野が単年を選んだのは今年、とにかく結果を残せる自信があったから。条件が一番いいところに行くのはプロ野球選手としては当然のこと。ただ、ここまですごい成績となると結局、巨人や阪神が本気で取りにきたらウチは太刀打ちできない。ない袖は振れないからね…」と頭を抱えている。

 そこである球団関係者は「大野に残ってもらえるようにクラウドファンディング(CF)でファンに訴えかけるしかないのでは」との声まで出ている。CFとは、ファンなど不特定多数の人がインターネットを経由するなどして他の人や組織に財源の提供や協力などを行うこと。新型コロナ禍で公式戦休止や入場制限を強いられたJリーグの名古屋グランパスは経営支援のためにクラブ初のCFへの賛同を呼びかけたりしている。

 球界では広島が戦後間もない1950年に発足した際、財政難で球団存亡の危機にさらされると、多くのカープファンが存続のために募金を始めた「たる募金」が有名だ。

 今回は個人選手の他球団への流出を阻止するための〝募金〟とあって実現すれば前代未聞となるが…。前出の関係者は「大野だって去年は与田監督が辛抱強く起用してくれたことで復活できたこともあるし、他球団と条件が同じならもちろん、そこまで大きな開きがなければ残ってくれるようだ。そのためにもクラウドファンディングを本気で検討するのはあり」という。

 中日はこれだけ偉大な投手に成長した大野雄を、引き留めることができるか。