【平岡洋二 連載コラム】30年の集大成として私に残された使命

2020年10月09日 11時00分

後進への伝承が課せられた使命。目を輝かせて聞き入る大学生

【平岡洋二「アスリートの解体書」(33)】いわく「競技選手のサポートをする仕事をしたい。プロ野球選手とか…」。弊社への就職希望者だ。スポーツ系の学科のある大学を間もなく卒業予定で種々の資格も取得し、自信満々の様子。掘り下げて聞いてみた。「具体的にどんなことをするのか?」と。いわく「ウエートトレーニングをやらせたり、栄養指導をします」。内容を聞くと、いわく「スクワットとかいろいろやらせます」。「じゃあそのスクワットの動作をその場でやってみせて」。動作を見せてくれた。

「それってスクワットと似て非なる動作で間違いだ」と指摘するとキョトンとした表情。
さらに深く聞き進むとまさしく「シドロモドロ」状態。何ひとつまともに答えられない。揚げ句の果てには、こうしたやからの常とう文句「習いました。授業でやりました」。正しく教えられたのかどうかも怪しいが、自らの肉体で何十回も何百回も反復して習得するってことは必要ないらしい。

 それを証明するかのような極めて貧弱な肉体。175センチの身長で50キロ台の体重だそうだ。にもかかわらず「できます。自信があります」と言い切る異常なやりとり。「スクワットをやらせますとか言ったけど、自分ができないことをどうやって指導するのか」「そんな貧弱な肉体では、高校生どころか中学生だって言うことを聞かない。お前が先に鍛えたら?ってバカにされる」…等々言い聞かせると、場違いな就職志望に気付いた様子。結果的に逃げるように帰っていった。

 こんな出来事は一度や二度ではない。以前と比べ一般的になったかに見えるウエートトレーニングが、実は我が国では全くと言っていいほど根付いてないことを証明する端的な一コマと言える。これまで多くのトップアスリートの指導に携わったことは何度も述べたが、プロ野球選手や日本代表選手でさえ最重要種目のそのスクワットをメンバー入りの際に正確にできた選手は皆無という信じ難い事実。なぜなのだろうか。最大の要因は専門家を養成する機関であるはずの大学や専門学校に教えることができる教員が極めて少ないこと。2年ほど前、体育の現役の教員の集まりで講習を依頼され、この連載で述べてきたような内容を話して聞かせた。「こんな話、初めて聞きました。感動しました…」

「仕事をする上で困ったことは? 今後やりたいと思うことは?」などの質問に対して「日本の遅々として進歩しない意識を含めたトレーニング状況を憂い、そうした実情を正すために私の経験を後進に伝承すること」と答えている。30年の集大成として私に残された使命だと考えている。

 長い間ご清聴ありがとうございました。ご質問などありましたら、ぜひお寄せください。(おわり)

 ☆ひらおか・ようじ「トレーニングクラブ アスリート」代表。広島県尾道市出身。広島大学教育学部卒業後、広島県警に勤務。県警での体育指導を経験した後、退職しトレーニングの本場である米国で研修を積み、1989年広島市内に「トレーニングクラブ アスリート」を設立。金本知憲氏(前阪神監督)や新井貴浩氏(元広島)、丸佳浩(巨人)ら200人に及ぶプロ野球選手を始めJリーグ・サンフレッチェ広島やVリーグ・JTサンダーズ広島など数多くのトップアスリートを指導する。また社会人野球や大学野球、高校野球、ホッケー日本代表などアマチュア競技のトレーニング指導にも携わり選手育成に尽力。JOC強化スタッフ、フィットネスコーチなどを歴任した。実践的なトレーニング方法の普及のためトレーナーを養成する専門学校での講義なども行っている。ジムのHPは「athlete―gym.com」。