他の5球団は何をやっているのか。今季の補強期間が9月30日に終了。期限ギリギリまで補強の手を緩めなかったのがセ・リーグ首位・巨人だ。本紙専属評論家の大下剛史氏はこの攻めの姿勢を高く評価する一方、動きが鈍かった5球団を「だらしがない」と一刀両断。巨人独走を招いた要因の1つである他球団の消極的な姿勢に警鐘を鳴らした。 


 巨人は1日の広島戦(マツダ)で投打がかみ合い5―3で勝利。先発サンチェスが6勝目をマークし、マジックを21と減らした。原監督は「ピッチャーは頑張ったと思いますよ。(中川)皓太にしてもね。よく頑張ったと思いますよ」と粘った投手陣をほめた。

 V2に向け視界良好の巨人だが前日9月30日に新規選手契約可能期間、トレード可能期間が終了。新型コロナ禍による過密日程など異例となったシーズンで、補強にもっとも積極的に動いたのが原巨人だった。

 開幕後に楽天からウィーラー内野手、高梨雄平投手を獲得すると9月には澤村拓一投手とロッテ香月一也内野手との〝格差トレード〟を敢行。リミットギリギリの同29日に田中貴也捕手を楽天に金銭トレードで放出した。

 今季の巨人の特徴は澤村、田中貴の放出に見られる「飼い殺し」の撲滅だ。原監督は「ぜひ(トレード)してあげなよと。貴也には大チャンスですよ」と快く送り出すと「チームが一番なのは間違いない。しかしそこにはみんな個人事業主。限られた年数の中での個人事業主という夢追い人である」と新天地での飛躍を願っていた。

 この姿勢に大下氏は「本当に素晴らしいこと」とうなずくと「自分のところで囲ってその選手の先のことは知らないという、飼い殺しという言葉は悪いが、どちらかといえばそれが巨人の伝統だった。外から見ていてもよくそう思っていた。移籍すれば活躍できるのになと思って、そのまま終わった選手が過去の巨人にはたくさんいた」と、伝統球団の歴史を振り返った。

 大下氏は巨人の新たな動きについて「原監督の決断が大きい。選手の兼ね合いがあって先発では9人しか使えないし、ベンチ入りも今年は26人だが例年なら25人しか使えない。そう考えたら外に出してやって活躍させた方が選手のためになる。当然、選手は確保しなければいけないが、チャンスがあると思って監督は(外に)出してあげている。選手を見た時にそのまま巨人にいても伸びない、出した方が本人のためになるというね。自軍の戦力とかより上の視点からの考え」と分析した。

 巨人は育成5選手を支配下にするなど補強面であらゆる手を打った。対照的に5球団の動きは鈍く、阪神がオリックスから小林慶祐投手を獲得し、広島がDJ・ジョンソン投手を金銭で楽天に放出、ヤクルトが四国アイランドリーグ香川の歳内宏明投手を獲得したぐらいだ。

 大下氏は「社会状況による影響は当然、ある」と球団によって減収の影響は大きいとしながらも「原監督の采配がいいのはもちろんだけど、その前にもともと、戦力が違う。その状況で巨人だけが補強を続けている。他の5球団は本気で巨人に勝とうとしていたのか? 申し訳ないがそうは見えない。シーズン中の補強がほとんどないというのは、あまりにもダラしなさ過ぎる」と巨人独走を許した5球団に苦言を呈した。

 そこには野球ファンへの思いがある。「今年のセ・リーグはCSがなく巨人の優勝が決まれば残りはすべて消化試合。ようやく各球場の収容人数の半分が見に来られるようになったのに、それが気の抜けた試合ではお客さんがかわいそうだ」(大下氏)。今オフこそは補強面での5球団の巻き返しを期待したいが…。