Gのホープが意地の逆襲だ。巨人・吉川尚輝内野手(25)の評価が急上昇している。10日の中日戦(ナゴヤドーム)では一時逆転となる2点適時三塁打を放ち、直近5試合では打率5割2分6厘と絶好調。その吉川尚の最大の難点は故障がちな肉体にあった。しかし、4年目の今季は特別扱いは排除され、原辰徳監督(62)ら首脳陣からの〝無言の圧〟も若武者の成長につながっている。 

 今度こそ定位置をつかめるか。最大の見せ場は1点を追う8回に訪れた。中日先発の福谷に7回まで3安打、無得点に封じられた中、吉川尚は無死一、二塁のチャンスで初球の直球を叩いて右中間を真っ二つ。逆転の一打に本人も「チャンスで思い切っていけたことが、いい結果につながったので良かったと思います」と笑顔を見せた。

 試合は直後に同点に追いつかれ、延長10回で2―2の引き分けに終わったが、原監督も「打率(2割6分5厘)も格好がついてきたよね」と背番号29の成長ぶりには満足げだった。

 その吉川尚に最も期待されるのは、長年埋まらない「二塁レギュラー」の奪取だ。守備力の高さは誰もが認めるところだが、課題だったのは打撃の向上。さらに首脳陣を悩ませてきたのが、毎年のように繰り返される故障だった。

 打撃に関しては指揮官が直接指導に当たり、時には「悪川くん」と得意の〝名前芸〟で叱咤したこともあった。そんな中でも、実はフィジカルについての特別扱いを撤廃されていた。それは外野守備の〝封印〟にも表れている。

 持病の腰痛が再発した昨季は復帰後のファームで負担を減らすために左翼に就かせるなど、首脳陣は細心の注意を払ってきた。しかし、今季は違う。試合前の練習で北村や増田大など多くの選手が内外野の複数ポジションでノックを受けている一方で、吉川尚は基本的に二塁のみ。開幕後に不調に陥った坂本の代役で遊撃を守る特殊な事情はあったものの、比較的負担が軽くなるセンターライン以外の外野で汗を流すことはない。

 そこには、首脳陣からの2つのメッセージが込められているとの見方もある。「1つは二塁を埋めるのは吉川尚輝だという大きな期待。複数をこなすのももちろん大変だけど、もう一つは外野という選択肢を外し、もう〝子供扱い〟はしないぞということではないか」(チーム関係者)

 いわば、吉川尚は退路を断たれた格好で、生き残るには二塁で勝負するしかないということ。そんな〝無言の圧〟は、しっかりと本人に届いているようだ。

 チームは7日の阪神とのナイター後に甲子園から名古屋へバスで移動したが、吉川尚は自ら新幹線での移動を選択した。指揮官も「大人になってきた」と褒めていたが、本人は「(コンディションは)自分が一番分かっているので」とサラリだった。

 流動的なオーダーが組まれる中で、今からでも定位置をつかめればチームにとっては好材料となる。どこまで好調を維持できるか、見ものだ。