猛虎がノってきた。阪神が19日の中日戦(甲子園)に11―3で快勝、最大「8」の借金を20日足らずで完済し、4連勝で今季初めて勝率5割とし、DeNAを抜き3位に浮上した。首位・巨人にも4・5ゲーム差と、セ界の〝てっぺん〟も視界にくっきりと入ってきた。

 チームトップの5本塁打をマークしている主砲・ボーアが右臀部の張りで先発を外れた布陣も、14安打で今季最多の11得点。本拠地で中日に今季初の同一カード3連勝を決めた。矢野監督は「2勝1敗と3連勝では全然違う」とうなずき、今季初の勝率5割に「これでまた新たにスタートが切れるんで。こっからさらに(貯金を)積み上げていきたい」と前を向いた。

 開幕カードで球団史上初の巨人戦開幕3連敗からスタートし、一時は2勝敗と開幕ダッシュに大失敗。だが、これで5カード連続の勝ち越しで、7月は10勝4敗。驚異のV字回復で息を吹き返した舞台裏には何があったのか?

 ターニングポイントは、6月30日からの中日3連戦だった。当時、打撃不振に悩んでいたボーアが7月1日の試合で内野ゴロでの全力疾走を怠り「アウト」となったプレーがきっかけだ。〝怠慢プレー〟と取られても仕方のないプレーに矢野監督は、助っ人のプライドを重んじた絶妙な「采配」を振った。

 基本、指揮官は「当たり前のプレーを、当たり前にする。タイガースは、それは常に大事にする」と日頃から語り、就任1年目から全力プレーを怠った選手には、主力・若手の区別なくベンチに下げ、試合後には自らダメ出しのコメントを残すほど「手抜き」には厳しい監督で知られる。

 メディアでも指摘されたボーアの走塁について、試合後の矢野監督は、その件に関して触れず。かといって野放しにはせず、その後「名古屋→広島」と続く遠征中、チームメートも含め人目に触れない場所とタイミングで、ボーアと通訳を呼び出し「二度とやるな」と諭したという。

 昨年まで現役メジャーリーガーとして複数年のキャリアを持つ助っ人に配慮し、隠密裏で「ダメ出し」を決行した指揮官と、その意図をくみ取ったボーアもまた、神妙に指摘に耳を傾け、以後の奮起を誓ったという。この指揮官の〝ブレない〟姿勢は、同時に日本人選手にも、まず「凡事徹底」を求める無言のメッセージとして伝わった。

 開幕当初は18打席連続無安打と不振にあえいだボーアがその後、19日までに5本塁打、13打点とチームトップのポイントゲッターにまで復調してきたのは、この出来事が何よりプラスに働いた証しだろう。

 決して俊足ではないものの、1メートル93センチ、122キロの巨体が打撃後も積極果敢な走塁を見せるシーンは日に日に増え、今では虎の〝新名物〟となった感さえある。

 まさかの開幕直後の〝大コケ〟も、まさに「雨降って地固まって」きた矢野阪神。上位追撃へここからが本番だ。