このままで大丈夫なのか。日本野球機構(NPB)とセ・パ12球団は政府の指針に従って10日から上限5000人で観客の受け入れをスタート。しかし東京都では1日あたりの新型コロナウイルス感染者が9日から4日連続で200人を超えるなど、全国レベルの“第2波発生”への懸念は高まる一方だ。球界内では不安と戸惑いが交錯し、ステップごとの有観客試合が自主的に再考される可能性も浮上しているという。

 明らかに「問題なし」では片付けられない数字だ。上限5000人の有観客試合を解禁させた10日に過去最多となる243人の新型コロナウイルス感染者が確認された東京都は12日、新たに206人の感染が報告され、4日連続で200人を超えた。

 東京都の小池百合子知事は「警戒が必要な段階」との認識を示しながら、いわゆる“夜の街”で接待を伴う飲食店の従業員が集団で検査を受けるケースから陽性反応者の増加につながっている点も挙げ「3、4月の状況とは異なっている」と強調。そうした背景も基軸に政府と歩調を合わせ、10日から開始されたイベント開催制限の緩和についても予定通りに進めていく姿勢を打ち出している。

 だが、現実として東京発の感染再拡大は終息の兆しが見えない。これにはNPBとプロ野球各球団も気が気でない。有観客試合の開催はコロナ禍で大きな打撃を受けている各球団にとっても貴重な財源につながる。それだけに球界内には「何が何でも経済を止めたくないという政府や東京都の考えには同調できるが…」との声が大半を占めているものの、1日の感染者数が200人台で推移している都の現状に戦々恐々としている関係者は少なくない。

「東京都で20代から30代の年齢層の感染者が多いことを注視している。若い人は罹患しても無症状や軽症で済む傾向が強いと言われ、それが『(緊急事態)宣言前とは違う』という多少の安心材料につながっているのだろうが、とんでもない話。そもそもプロ野球に集まるお客さんはこの20代から30代の人たちが大きな割合を占めており、ピンポイントで宣伝を図るセグメントマーケティングでも重要な位置付けにある。この年齢層を中心としたお客さんが今後の有観客拡大でも主流になるわけで、万が一、そこから感染が広がっていってしまう最悪の流れも念頭に置かなければいけない」と球界関係者は警戒心を強めている。

 10日から有観客試合が解禁となり、首都圏ではロッテが本拠地ZOZOマリンスタジアムで12日まで西武戦を行った。17日からは横浜スタジアム(DeNA対巨人3連戦)、21日からメットライフドーム(西武対ロッテ6連戦)、24日から神宮球場(ヤクルト対巨人3連戦)、28日から東京ドーム(巨人対DeNA3連戦)と首都圏の各球場で有観客試合が続々と始まる。「他のプロスポーツやイベントよりプロ野球は試合数が多く、集客人数も累計で圧倒的に上回る。つまり、それだけ感染するリスクも高いということ。その上で、この時期に東京近郊で試合数が多くなることには不安がないと言えばウソになる」と前出関係者は打ち明けた。

 NPB周辺からはこんな時代ゆえに「もし、観客の中から感染者が1人でも出れば、SNSなどであっという間に尾ひれがついたウワサが広まってプロ野球観戦そのものに尻込みしてしまう人も出てしまうのではないか」とネットによる過剰な情報拡散を不安視する意見も出ている。

 こうした悪い予測も完全には否定できないことから、Jリーグと合同の「新型コロナウイルス対策連絡会議」の専門家メンバーは、次のステップで8月1日から予定される最大収容人数の50%の客入れに関し、今月20日前後に詳細を再検討する方針だ。12球団の中には「東京の状況が悪化していけば、政府や自治体から何か言われなくても専門家メンバーの意見を反映し、自主的に自粛しなければいけなくなるかもしれない」という慎重派も少なからず存在する。

 別の関係者は「正直言って、この東京発の感染拡大は実態がつかみにくい。発表されている一日の感染者数は不安をあおるだけで逆の結果につながっているし、本当に集団検査しているなら感染発覚者数と言い換えるべきではないか。PCR検査数や重症者数、どこで重点的に検査しているかも発表してほしい。そうでなければ、プロ野球界も混乱する」と東京都に注文をつけることも忘れなかった。

 経済最優先を念頭に政府や東京都が推し進める玉虫色の新型コロナ対策にはNPBを筆頭に12球団も混乱している。