〝巨将〟と知将の決定的な違いとは――。巨人・原辰徳監督(61)が4日の中日戦(東京ドーム)で監督通算1034勝とし、長嶋終身名誉監督に並ぶ球団歴代2位タイとした。ミスターから帝王学を学び、指揮官としての経験を積んできたなか、故野村克也氏にはボロカスに批判されたこともあった。ノムさんについて語ることはほとんどなかった原監督だが、そこにはそれぞれが抱く〝監督像の違い〟があった。

「監督という部分では、素晴らしい選手たちに恵まれたという。コーチも含めてですね、私は本当の意味で『裏方』の中でね、やったというその通過点だと思うんですけど、感謝感謝ですね」

 指揮官としての偉業達成に、原監督は終始控えめなコメントを貫いた。個性あふれる巨大戦力を率いた時代もあったが、過渡期にあったチームを立て直して優勝に導くなど、育成、底上げにも手腕を発揮。一方で第2回WBCでは、スター軍団をまとめあげ世界一へ。そのチームマネジメント力は「名将」の域に達したといっていい。

 しかし、そんな原監督に対し、厳しい見方をしてきたのが野村氏だった。横文字を多用するコメントから、グータッチ、最近では丸が打った時の「丸ポーズ」などを一緒に行うなどのパフォーマンス、さらに作戦面など采配に至るまで…。

 当然、原監督の耳にも入っていたはずで、野村氏が亡くなった2月11日に「印象に残っている言葉はあるか」の質問にも「選手を褒めるのが上手だな」と言われたエピソードこそ明かしたが「なかなか活字にできないような言葉がいろいろあるので…」と苦笑いだった。

 しかし、原監督にも絶対に揺るがない「監督像」がある。それは「監督は孤独な存在ではない」というもの。野村氏とは正反対のものだった。

 野村氏は南海で兼任監督を務めて以降、選手やコーチと食事に行くことを一切せず、グラウンド外では単独行動を貫いた。情を抱いてしまい、冷静な判断ができなくなることを恐れたためで、多くの著書でも「指揮官は孤独なのだ」と記している。

 しかし、原監督は違う。指揮官として、選手、コーチ陣との取るべき距離感について、こう語ったことがあった。「距離っていうのは置く必要はないと思ってる。チームは一つだから」

 さらに野村氏のように、グラウンド外でのコミュニケーションはしない監督もいることについても、原監督は「自然体がいいと思う」とキッパリ。そしてこう続けた。「一緒に食べるときは『一緒に行こうか』と。前々から約束して『お前たち』と呼んで行くことは(自身が)コーチの時はよくやった。しかし、監督は平等にやってあげた方がいい。選手ってそういうところをよく見ているから」

 選手でもコーチでも、食事にも行くしゴルフもする。しかし、そこにも原監督なりの決めごとがあった。「(誘うにも)コソコソやったら絶対ダメだな。(あえて大勢の前で)そうそう。『選手代表、キャプテン、よし来い』。『選手会長、よし行くぞ』。そういう方がはるかにいいでしょうね」。常にオープンで平等。しかし、采配は時に非情――そこを分けられたのが原監督であり、名将となりえた要素の一つなのだろう。

 球団歴代トップは川上哲治氏の1066勝。川上氏を抜けば星野仙一氏の1181勝に次ぐ、日本球界11位となる。ちなみに野村氏は5位の1565勝。原監督もその域に少しずつ近づいている。