これぞエースの面目躍如だ。巨人・菅野智之投手(30)が3日の中日戦(東京ドーム)で今季2勝目を12球団最速となる完封勝利で飾った。1安打11奪三振、あと一歩でノーヒットノーランという圧巻投球。新たな投球フォームを取り入れるなどあくなき向上心の賜物だが、進化を支えるのはそれだけではない。阿部慎之助二軍監督(41)が現役時代に残した〝置き土産〟も血肉となっているという。

 ほぼ完璧だった。7回一死までは2四死球で許した走者のみ。直後にビシエドに二塁打を浴び、準完全試合こそならなかったが、許した安打はこの1本だけで「久しぶりに納得できる内容というか。去年の借りもあるので少しずつ返していきます」と笑顔をみせた。

 相手先発・大野雄との投手戦を制し、チームも5―0で勝利。先発陣が7回以上を投げ切れたのは、開幕戦の菅野と前日2日に8回を投げた桜井だけだった。フル回転を余儀なくされたブルペン陣の〝登板過多〟は首脳陣の頭痛の種だっただけに、菅野の完封劇はより価値ある1勝となった。

 日本球界を代表するエースとなっても、菅野のチャレンジ精神が衰えることはない。今季からは腕から始動する投球フォームに大幅チェンジした。ただ、時には耳をふさぎたくなるような助言も菅野の血となり、肉となっている。

「もうちょっと早く投げてほしいんだよね。守っているとイライラするから。『早くしろ!』って何度も言った。(捕手から)野手になって、野手の気持ちが分かった。野手は1球ごとに(力を)ウッて入れるものだから」

 声の主は、昨季まで現役でプレーしていた阿部二軍監督だった。同監督は菅野を入団当時から知り尽くし、幾度となくバッテリーを組んで英才教育も施してきた。しかし、晩年はマスクをかぶる機会も少なくなり、一塁を守りながらバックから菅野を支える側に。当然、サインを出しながらマスク越しに見える景色とはまるで異なる。そこで気づかされたのが菅野の投球テンポだったという。スイスイと投げ切ってしまう印象も強いが、実は「アイツの試合ってけっこう長いんだ」と感じたそうだ。

 投球のテンポが良ければ、攻撃のリズムにもつながる。だからこそ、引退する前まで菅野に口酸っぱく言い続けてきた。チームスタッフも「年々、智之に口うるさいことを言える人が少なくなる中、本人にとってもいいアドバイスになったようです」と語っていた。

 本人の努力はもちろんだが、好投の裏には阿部二軍監督が残した思いもある。今後もチームをけん引する投球で恩返しといきたいところだ。