【広瀬真徳 球界こぼれ話】プロ野球が開幕してはや10日がたった。新型コロナの影響から例年より約3か月遅れのスタートを余儀なくされたが、球界関係者やファンにとっては待ちに待った“球音”である。とりあえずは一安心だろう。

 もっとも公式戦が始まったとはいえ、現場には物足りなさも否めない。関係者以外スタンドに誰もいない「無観客試合」が続いているからだ。

 開幕前の練習試合のころから「数試合をやれば見る側も慣れるはず」と安直な発想を抱いていた。だが、ファンの声援や鳴り物応援がない球場の雰囲気には違和感を覚えるばかり。各球団が「少しでも通常開催に近い雰囲気を」と様々な形で試合を盛り上げる工夫を凝らしているが、現状では「寂しい」と言わざるを得ない。

 実際に無観客試合で真剣勝負を繰り広げている選手たちはこの空気をどう捉えているのか。親しい選手に聞くと「雰囲気には慣れましたが、やはり応援がないと試合展開やベンチのムードに影響が出ます」と、こんな話をしてくれた。

「今までの試合なら、例えば連打で得点機を作ると、観客席から流れる応援歌やチャンステーマ、ファンの動きなどの視覚効果でベンチには自然と一体感というか、一気呵成に攻める雰囲気が作り出されていました。でも、現在のような無観客だと、そのムードが簡単には作れない。ベンチからの声だけなので、いい流れが長続きしづらいのです。リモート応援や録音された応援歌などが球場のビジョンやスピーカーから流れるのはうれしいですが『本物の応援』には勝てない。やはりファンの声は必要です。早く球場に来てもらえるようになってほしい」

 3月上旬、まだ各地でオープン戦が繰り広げられていたころ、何人かの選手に無観客試合の感想を聞いた。その際、一部選手からは「雑音がないから意外に集中できる」「掛け声などが声援でかき消されない」「スタンドからヤジがない」などといった好意的な意見も少なからずあった。それから3か月以上がたち「無観客の方がいい」という声は聞こえない。むしろ「早くファンの前でプレーしたい」と願う選手の思いが周囲を覆いつくす。これは各選手が無観客試合を続けた結果、声援のありがたみを再認識したからに他ならない。

 7月10日から限定的にファンが球場に足を運べるようになるが、選手にファンの歓声を渇望させた今季の無観客試合。球界に残した功績は意外に大きいのかもしれない。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。