「考えるな!感じろ」実践したら人工芝が物足りない

2020年06月25日 11時00分

1990年以降は野村(右)と二遊間を組んだ

【正田耕三「野球の構造」(35)】ブルース・リーの代表作の一つでもある主演映画「燃えよドラゴン」には、こんなセリフがあります。「Don’t think! Feel」。日本語では「考えるな! 感じろ」と訳されています。

 守備でスランプに陥っていた僕に一軍守備走塁コーチの三村敏之さんがくれたアドバイスは、まさにそれでした。「何を難しく考えとるんや! グラブで打球を捕って投げるだけやないか!」。当時の僕はそれまでに習ってきた“基本”にとらわれ過ぎて、打球を捕って打者走者をアウトにするという、守備において最も大事なことを見失っていたのです。

 打球の正面に入って処理したらアウトを2つもらえるなら、そうすべきでしょう。しかし、実際にはグラブで捕っても、胸に当てて止めてもアウトの数は変わりません。何を急にバカなことを…と思われるかもしれませんが、三村さんのアドバイスからプロ2年目でこの点に気づけたことは、僕にとって大きな財産となりました。

 例えば目の前に100円玉が落ちていたとします。皆さんだったら、どう拾いますか? 正面に入って腰を落とし、両手で取り上げますか? そんな面倒なことをする人はいませんよね。左手で拾い上げるとしたら、自然と左足が前に出ませんか? そうなるのは、それが最も自然で、左手を自由に動かせるから。無理に両手で捕りにいくのではなく、シングルキャッチの方が理にかなっているのです。

 考え方が前向きになったことで、心に余裕も生まれました。それまでの「イレギュラーしたらどうしよう」が「イレギュラーは付きもの」と思えるようになり、実際に打球がイレギュラーしても心の準備ができているから慌てることもなくなったのです。そうなると、自然とバウンドも合ってくるようになるのだから不思議なものです。

 本拠地だった旧広島市民球場は土のグラウンドで、内野手泣かせの球場でもありました。ただ、気持ちに整理がついてからはエラーをする気もしなかったし、後楽園球場や東京ドーム、横浜スタジアム、神宮球場といった人工芝の球場では打球処理が楽で、物足りなささえ感じたものです。

 僕には足という武器もありました。二遊間の打球に対しては正面に入るのではなく、打球を追い越し、余裕を持ってさばく――。活字で説明するのは難しいのですが、ときには固定観念を捨て、柔軟性を持って物事に対応することが大事だという思いは伝わったでしょうか? 次回は走塁について。一人の野球人生を変えてしまったエピソードも披露させていただきます。

 ☆しょうだ・こうぞう 1962年1月2日生まれ。和歌山県和歌山市出身。市立和歌山商業(現市立和歌山)から社会人の新日鉄広畑(現日本製鉄広畑)に進み、84年ロサンゼルス五輪で金メダル獲得。同年のドラフト2位で広島入団。85年秋から両打ちに転向する。86年に二塁のレギュラーに定着し、リーグVに貢献。87、88年に2年連続で首位打者、89年は盗塁王に輝く。87年から5年連続でゴールデン・グラブ賞を受賞。98年に引退後は広島、近鉄、阪神、オリックスほか韓国プロ野球でもコーチを務めた。現役時代の通算成績は1565試合で1546安打、146盗塁、打率2割8分7厘。

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