甲子園に響いた阪神・今岡の怒号「やかましいわ」

2020年06月09日 11時00分

2006年は打撃不振に苦しんだ今岡

【球界平成裏面史(44)、岡田阪神(5)】まだ、甲子園球場が古い建物だったころ、ベンチからロッカールームへ続く通路には石造りの階段があった。その場所は吹き抜けになっており、声がよく響く。敗戦直後に「やかましいわ」という怒号を響かせたのは、前年の打点王だった。

 平成18年(2006年)4月16日の広島戦は浜中のソロで先制し、先発の江草が好投。1―0でリードしたまま9回を迎え、そのまま江草が続投した。結果、2本の犠飛を許してしまい1―2で逆転負け。敗因は2度の満塁機でいずれも併殺に倒れた5番・今岡誠(現真訪)の打撃不振に向けられた。

 期待値は無限大に膨らんでいた。何しろ前年の今岡は歴代3位のシーズン147打点で見事、打点王に輝いた。シーズンでの満塁成績は25打数15安打4本塁打、49打点、打率6割と無類の勝負強さを誇っただけに、虎党もその残像を追ってしまう。この日は2打席とも4番金本が歩かされた後の満塁だっただけに、印象の悪さが際立ってしまった。

 当日は日曜日でデーゲームだった。筆者は岡田彰布監督の担当だったため、今岡の取材は後輩記者に任せた。「こんな内容だし、無理にコメント取りに行かなくてもいいよ」と助言したものの、そこは若手。果敢にストレートな質問をぶつけて「やかましいわ」をいただいた。実は試合後、某スポーツメーカー主催のトークショーに今岡が出演予定だった。そこで、落ち着いたころに改めて取材しようとしていただけに誤算だった。事実、トークショー後にはこんなコメントをしていた。

「普段、見覚えのない記者の方から質問されましたね。『やかましいわ』って言ってしまったんですか。ははは。なんか怒鳴っちゃったと思うけど(興奮して)覚えてないですね。まだ、シーズンは長いんで切り替えて頑張ります」

 ただ、この06年の今岡は右手の手術を受けるなど59試合の出場にとどまり、打率2割2分1厘。その後も本来の輝きを取り戻せず、09年オフには阪神を退団することになった。

 その後は10年にロッテ移籍。翌年を最後に引退した。阪神での二軍コーチを経て、今岡は現在、ロッテの二軍監督を務めている。当時のことをどう考えているのか。そう率直に質問したところ、何とも爽快な答えが返ってきた。

「もともと僕は、レギュラーとして打率3割というラインを目指していって、ホームランは15本ぐらいのところで収まるくらいの打者かなと、自分では思ってました。2005年に5番打者を任せてもらった時には、期待に応えようとして自分の打撃を崩して、無理をしてしまったことは事実です。それが故障や自分の引退が早まったことにつながっているかもしれません。でも、全く後悔なんかしてない。147打点ももちろん僕は(優勝という)最高の勲章を手に入れることができた。それで十分ですよ」

 晩年は苦悩も多かった天才打者。その口からネガティブな言葉が聞こえてこなかったのは、当時の担当記者としてうれしい限りだ。

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