【球界こぼれ話・広瀬真徳】プロ野球が今月19日に開幕する。当面はすべての試合が無観客で開催されるものの、ファンにとっては待ちに待った球春ならぬ“球夏”。まずはひと安心といったところだろう。

 もっとも、この決定に喜んでばかりもいられない。異例のシーズンを迎えるにあたり、早くも懸念されている問題がある。プラチナ化する可能性が高い観戦チケットの買い占めや高額転売だ。

 政府の指針によると、新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、各球団は7月10日から観客を入れての試合が可能となる。ただ、当初の最大観客数は1試合当たり5000人が上限。8月1日以降に人数は段階的に緩和される予定だが、少なくとも8月まではどの球場でも通常開催の1割程度しか観戦チケットは販売されない。そうなると各球団でファンによるチケット争奪戦が勃発しかねないのである。

 たとえば広島。通常開催でも本拠地マツダスタジアムのチケットは入手困難で、あまりの人気ぶりに昨季まではネット等で高額転売されるケースもあった。これを受け、球団側は今季から購入者の氏名、連絡先の確認を徹底。ファンが公平にチケットを入手できる対策を講じているが、購入熱は高まるばかり。その最中での販売数制限である。これまで以上のプラチナ化は必至で、球団職員も「ここ数年は職員や球団関係者であっても公式戦のチケットは手に入らない。そんな状況下でさらに(販売数が)減るとなれば、誰が買えるのか。このままだと今まで以上にファンの怒りや反発を招きかねない」と不安を漏らしていた。

 人気球団ゆえの苦悩とはいえ、今季に限れば実売数激減の影響で不人気球団でも争奪戦が繰り広げられる可能性が高い。悪質な転売によるチケット高騰や買い占めは結果的にファン離れにつながる危険性もあるだけに警戒が必要だろう。

 昨年6月に「チケット不正転売禁止法」が施行され、球界も高額転売や大量購入への取り締まりは強化している。昨年9月には西武がチケット転売を行ったファンクラブ会員40人以上を退会処分にしたことが話題になった。ただ、コロナ禍のマスクのように希少価値が高まれば高まるほどこの問題は深刻化、巧妙化する傾向がある。

 今季の観戦チケットがいわゆる“転売ヤー”の標的にならないよう、12球団には今から毅然とした態度でこの難題に取り組んでもらいたい。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年、愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。