【現場のウラ側 取材ノート】どんな業種でも、いい準備なくしていい仕事はできない。それはプロ野球でも同じだ。2002年の現役引退後、西武―日本ハム―ロッテ―楽天でコーチとして多くの選手たちを指導してきた阪神の清水雅治ヘッドコーチ(55)は以前にこう言っていた。

「例えば外野守備にしたって『同じ守備位置』なんてものは一つも存在しないと俺は思っている。イニング、点差、味方投手と相手打者の特徴によって全く違ってくるんだよな。そういう『準備』の必要性を選手たちに俺は伝えたい」

 原点になっているのは現役時代の“後悔”だという。舞台になったのは1994年10月8日のナゴヤ球場。球史に残る名勝負の一つに挙げられる中日と巨人によるリーグ優勝をかけた「10・8決戦」だ。

 当時中日の清水は「1番・左翼」で先発出場した。「初回の第1打席だよ。先頭打者でいきなり右中間に二塁打を打ったんだよね。先制のチャンスさ。次打者の小森に送られたサインは送りバントだった」。ところが、小森は犠打に失敗し、まさかの空振り。清水は二、三塁間に挟まれてアウトになり、大事な先制機を逃した。

「あのシーンでは立ち止まらず一目散に三塁に突っ込むべきだった。今でも悔やんでいるんだよ。小森が犠打を空振りするかもってことを想定していなかった。まさに準備不足だったと思う。あの一つのミスで歴史が変わったのかもと思うとな」

 それだけが敗因ではなかろうが、結果的に中日は3―6で敗れて優勝を逃した。だからこそ清水ヘッドは「選手たちには後悔のない現役生活を送ってほしい。準備ってのは本当に大切なんだよ」と力を込めた。

 今年最後に私が球場でユニホーム姿の選手や監督、コーチを取材したのは3月26日のDeNAとの練習試合(横浜)だった。あれから1か月半。リモート取材でしか現状を知り得ない彼らがどんな準備をしているのか。再会できる日が待ち遠しい。