阪神は新型コロナウイルスに感染し治療にあたっていた藤浪晋太郎投手(25)が7日に退院したと発表した。右腕の無事は喜ばしい限りだが安穏としてもいられない。阪神は同日に発令された緊急事態宣言を受け、これまで続けてきた選手、全球団職員の自宅待機を無期限で延長することを発表。阪神のシーズンへの準備は他球団に対して大きく出遅れることになる。甚大な被害をチーム内外にもたらした「阪神コロナ騒動」の“失敗の本質”はどこにあったのか。危機管理の専門家に話を聞くと――。

 藤浪は球団を通じ「この度はファンの皆様、野球関係者の方々、チームメイトや球団の方々をはじめ、多くの方々に多大なご迷惑とご心配をおかけしたことを深く反省し、お詫び申し上げます。今後はプレーでファンの皆様の期待に応えることができるように、より一層野球に精進してまいります」とコメント。強い悔恨の情を行間からにじませた。

 一方、阪神の所在地でもある兵庫県を含んだ7都府県に緊急事態宣言が発令されたことを受け、谷本球団本部長は3月27日以降続けてきた全選手、全球団職員の自宅待機を無期限で延長することを明言。限定的な形ながら練習を継続しているチームもあるが「当球団の場合はまだ入院している選手もいる。他球団とは事情が違うので」(谷本本部長)と球界コロナ騒動の震源地として一定の“ケジメ”をつけた格好だが、そもそも阪神は何を間違ったのか。

 危機管理学を専門とし横浜国立大学で教鞭をとる「失敗学会」理事の宇於崎裕美氏は、事態が発覚した直後の球団フロントの対応のまずさこそが騒動を大きくしてしまった最大の要因と指摘する。

「3月14日の『食事会』について球団が詳しく説明することは、プライバシーの侵害にもあたる危険性をはらんでいた。そういう意味でも球団が説明をためらったことは理解できます。しかし球団側の説明不足が裏目となり、ネット上では噂や臆測が広まってしまい、それがいつしか世間の人々の確信にまで変化してしまった。ファンからも失望の声も上がっていますし、阪神球団の企業経営上、とても大きな損失につながってしまった。(事態が発覚した)最初の段階で謝罪しておけばそれで済んだかもしれない。結局球団は藤浪の勇気ある行動にも泥を塗ってしまった格好になる」(宇於崎氏)

 関西大学でリスクマネジメント論を専門とする亀井克之教授も「状況を『少しでも小さく見せよう』と説明を小出しにした球団側の初期対応にこそ問題があった。危機対応に失敗した企業がハマりこみやすい『最悪のパターン』です。人気球団の阪神は有事となるとメディア、ファンなどから一斉に非難を浴びる“潜在的リスク”を常に抱えているチーム。より慎重に、冷静に球団はリスク管理を考えるべきだった」と手厳しい。

「戦後最大級の危機」と安倍首相が表現したコロナ禍。阪神が払うハメになった“授業料”も高くついてしまった。