悪いところばかりではない無観客試合 長嶋監督時代にもあった「球音を楽しむ日」

2020年03月11日 11時00分

無観客の中、打席に入る坂本

【赤坂英一 赤ペン!!】わびしく寂しい無観客試合にも、いいところがないわけではない。私設応援団の鳴り物がないので、野球独特の音がはっきりと聞こえるのだ。

 スパーン!と投手の快速球が捕手のミットに収まる。それを打者がカキーン!と鋭くはじき返す。その打球をさばく内野手同士が掛け合う声までスタンドに響き渡る。

 この明瞭な「球音」が非常に新鮮。テレビ観戦しているファンも同感のようで、「音が心地よい」「せっかくだから録画した」という声が多数SNSに寄せられている。

 実は今回の無観客試合以前にも、こういう球音が聞こえる試合は何度か企画された。すぐに思い出されるのは2000年6月14日、東京ドームでの巨人―横浜(現DeNA)戦。長嶋監督たっての希望で実現したという「球音を楽しむ日」だ。

 巨人関係者が私設応援団と交渉に当たり、鳴り物自粛を要請して実現。両チーム、ファン、マスコミにはおおむね好評で、私も大いに称賛する記事を書いたものだ。が、一方では「鳴り物がないと物足りない」という選手や観客も少なくなかった。

 また、当時を知る巨人関係者によると、「私設応援団に鳴り物を控えるようお願いするのは大変だった」という。「ウチ(巨人)はともかく横浜の応援団には結構抵抗感を示された」そうだ。巨人は別の対戦カードでも「球音を楽しむ日」をやろうと考え、関係者が相手球団の本拠地地域に足を運び、私設応援団に理解を求めた。が、このときは非常に険悪な雰囲気になり、交渉どころではなかったと聞く。

 それから11年後、楽天・星野監督も仙台で「球音を楽しむ日」をやろうと言いだした。これは「サウンド・オブ・ボールゲーム」と銘打たれ、同年6月30日のソフトバンク戦で実現した。しかし、観客は9649人と、このシーズンの1試合平均1万6225人を大きく割り込んだ。また、当日観戦したお客さんによると、「後半から一部の楽天ファンがチャンステーマを歌い始めた」という。結局、鳴り物と大声で応援したい観客がいかに多いか、改めて証明されるという皮肉な結果に終わったのだ。

 それ以来途絶えていた「球音」が、球界全体では9年ぶり、巨人では実に20年ぶりに復活したわけである。私のような球音派のファンは今のうちにテレビ中継をじっくり見ておきましょう。

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。毎週金曜朝8時、TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」出演中。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」(講談社)などノンフィクション増補改訂版が電子書籍で発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」(PHP文庫)など。最新刊は構成を務めた達川光男氏の著書「広島力」(講談社)。日本文藝家協会会員。