Gの若き指揮官がキャンプインから熱血指導を見せている。昨季限りで現役を引退し、今季からファームで指揮を執る巨人・阿部慎之助二軍監督(40)だ。宮崎春季キャンプではバットを握ってノッカー、さらには打撃投手も務めるなどとにかく精力的に動き回っている。新たに背番号80として指導者人生をスタートさせたレジェンドを本紙評論家・前田幸長氏が直撃。現役時代に巨人で何度もコンビを組み、気心知れた2人の“バッテリートーク”を紙上再現する。

 前田:どうよ、慎ちゃん。忙しいんじゃないの?

 阿部二軍監督:めっちゃ楽しいですよ。クソミソ、ノックを打ったりして。

 前田:昭和のにおいがプンプンしてるね。何か楽しそうにやっているなと思っていた。監督業も似合うね。で、二軍では誰に注目しているの。

 阿部:技術的なこといったら、増田陸とか(いい選手に)なってほしいなという…。根性据わってるんですよ。

 前田:理由が“昭和チック”だねえ。でも厳しい練習についてきている選手は多いんでしょ。

 阿部:とりあえず今の子って…。観察中ですね。試合とかも含め、どういう感じかなあと。

 前田:指導者になってギャップを感じるところはあるの。

 阿部:「考えて動く」というのをスローガンにしたんですけど…。動いて考えて。考えて動いて…。動いてから、また考えろよ、って言っているんですけどね。悪かったときにしか反省しないじゃないですか。それは当たり前なんですけど、いいときに何でできたのかって、そういうのも考えようぜって。こういう準備してたからだなとか、ちゃんと、あっ、ここ来たなとか。想像してたら本当に来たとか。そういうのは絶対にあると思うんですけどね。そういうのも、ちゃんと覚えてメモったりしろって。

 前田:メモはさせるようにしているの。

 阿部:そこは強制しないようにしてます。

 前田:ああ、なるほど。そこも見るわけね。ちゃんとアイツは書いているなとか…。若い選手は分かったふりをするもんな。

 阿部:人って絶対忘れますからね。だからメモっていたときに、あっ、こんなことを言っていたんだと。それを思い出すだけでいいんですよ。

 前田:長年やっていたら、ちょっとつかんだなと調子に乗るときもあるよね。

 阿部:モタを部屋に呼んで「(紅白戦で安打を)3本打ったからって調子に乗るなよ」と。「今日より明日がもっと大事なんだぞ」と。そういうところも…。「こいつ“調子乗り”だなと思われた瞬間に終わるぞ」と。

 前田:いま彼は20代だよね。

 阿部:24です。3本打っても謙虚にね。いつもと変わらず、うまくやれって。そういうところも監督、コーチは見ているんだからと。チャンスだから頑張れって。「二軍いたい?」って聞いたら「ムリ、ムリ、ムリ」って(笑い)。

 前田:紅白戦の采配はどうだった。

 阿部:いや…もう伝達の難しさをわかりましたね。打者も見なくちゃいけない。1球終わったあと、すぐ(サインを)出さなくちゃいけない。何もなくても。攻撃もそうですけど、攻撃の時に攻撃のサインも。打者を見るじゃないですか。(バットに)当ててもすぐ出さなきゃいけない。見るんですよ、三塁コーチも。そのタイミングがね。打者のこともちゃんと見てあげたいなと思っているから。打ち方だったり、どうやって打つのかなあとか。

 前田:もう1つ。監督として練習を見ていて“もどかしさ”のようなものはあるの。

 阿部:そういうもんだと思ってあげないと。自分の見る目もだいぶ落としてますね。まあ打てねえだろうなあとか。これバント失敗するんだろうなあとか。なるべく完壁に求めるんじゃなくて、この辺になるんじゃなかろうかと。何でできねえんだよって思わないようにしてます。ああ、できないから、こっち(二軍)にいるんだなって。できるようになるように頑張ろうって。

 前田:阿部慎之助っていう、400本塁打、2000本も打って。やっぱり、そこを求めるとしんどいよな。

 阿部:キャッチャーをやっていたときに自分の中でAランクの人、Bランクの人、Cランクの人ってある程度決めていたんですよ。Aランクの人は、こう…何も言わない人。で、まあBランク、Cランク。BもCもあんまり変わらないですけど、自分の中でどうしようもないヤツなのがCなんですけど、そいつをAから見てしまうとかわいそうなので。バーンと下げてあげる。でもその代わりバーンとも言いますけどね。

 前田:もちろんね。CならばBになれよと。

 阿部:そういうことだけは言っています。ただ、できないからエラーしているんだとか、それを当たり前に捉えたら困るんですけどね。それじゃダメなんですけど。

 前田:そうだな。CとかBで満足されたら困るんだけどな。

 阿部:Bから上に行かないと。「おい言うぞ、お前。野球やろうぜ」って。「ただ、お前が打つとかな、そんなんじゃ野球になんねえんだよ」と。「そればっかり考えているんだったら俺は試合に出さない」って言っています。