野村克也さんを語るとき、おしどり夫婦として知られた妻・沙知代さんの存在は欠かせない。2017年12月に夫人を亡くしてからは「男は妻に先立たれると弱い。真っ暗な家に帰りたくない」と、よくぼやいていた。

 長年連れ添った野村夫妻の家庭内ルールも独特だった。自宅での定位置は野村さんが応接間で、沙知代さんがダイニングとばらばら。結婚記念日の贈り物などもなかったという。それでも野村さんは妻を立てることを忘れなかった。恐妻家であることを認めつつ「奥さんにリーダーシップを取らせたほうが家庭は絶対うまくいく。ビクトリア女王が統治した時代の大英帝国がそうだった」と持論を展開。世間的には“悪妻”といわれた夫人を常に擁護していた。

 夫人への愛情の深さがうかがえる、こんな発言もあった。「沙知代はみんなに叩かれるけど、世が世なら女性宰相になっていてもおかしくない器だ。決断力、実行力ともすごいし、本当に女性にしているのはもったいないぐらい」。夫人が脱税容疑で東京地検特捜部に逮捕され、阪神監督の座を追われてそれほど時間も経過していない時期。世間も「ノムさんも奥さんがあんなことさえしなければ…」と同情的だったが、野村さんは「沙知代がいなければ、そもそもこんなに監督などもできていない」と妻への感謝の気持ちを隠すことはなかった。

 晩年も夫婦2人でお気に入りのレストランを巡るのが常だったという。円満な夫婦仲の秘訣を聞かれると「本当の夫婦とは他人同士というのを認め合うこと」と語っていた。

 沙知代さんに先立たれた野村さんは愛妻の写真がたくさん飾られた部屋で生活していたという。2年遅れて、最愛の妻の元に旅立った。