【広瀬真徳 球界こぼれ話】先週、宮崎・南郷で行われている西武の春季キャンプで来日7年目を迎える助っ人、エルネスト・メヒア(34)を取材した。

 彼はここ2年ほど出場機会に恵まれなかったため、移籍を視野に入れていたことは以前、当コラムでも書いた。だが、最終的には昨季年俸5億円(推定)からの大幅減俸をのみ、年俸1億円で西武残留を決断した。この背景には何があったのか。真相を知りたかったため、本人に聞いてみると、その理由は意外なものだった。

 一つは渡辺久信GMの温かい「ひと言」だったという。

「調子が良くても出場機会が限られていたため、僕自身は『もうこのチーム(西武)は自分を必要としていない』と思い込んでいた。でも、去就に悩んでいる時に渡辺さんから連絡があり『来季も戦力として考えている。(西武に)残ってほしい』と改めて言ってくれたんだ。それがうれしくてね。このひと言でそれまでの複雑な気持ちが晴れたんだ」(メヒア)

 チームメートやファンの日頃の支えも残留に傾いた要因だったと続ける。

「一度冷静に自分を見つめなおして思ったんだ。確かにここ数年、出場機会が少なかった。でもそんな僕にライオンズの首脳陣、チームメート、ファンは批判もせず、常に見守ってくれ続けた。特にファンは少ない出番にもかかわらず、本拠地では大きな声で声援を送り続けてくれた。こんな幸せな状況を捨てて、新天地でプレーはできない。そう思ったら、今度は自分がチームやファンの信頼を取り戻せるよう、少ないチャンスでも全力を尽くして期待に応えるべきではないか、と。お金には代えられない価値があると言うけど、今思えばこの環境こそが自分の財産だとわかった。その思いを今季、西武で見せたいね」

 昨シーズン、会うたびに苦悩の表情を浮かべていたメヒア。生真面目な性格のため、たとえ起用法などに不満があっても人前では文句一つ言わなかった。その真摯な姿勢が自らを追い詰めていたのかもしれない。そんな悶々とした気持ちを渡辺GMのひと言や周囲の思いが一掃したとなればメヒアは今季、生まれ変わるはず。

 秋山がメジャーに移籍したとはいえ、メヒアにレギュラーの確約はない。おそらくDH(指名打者)で栗山との併用、または主砲・山川の補完要員だろう。それでもどん底を知った34歳のベテランは最後に笑顔を見せながらこう言い切った。

「まあ今季の自分を見ていてくれ。もう何があっても西武のために全力を尽くすから」
 ひと皮むけたベネズエラの大砲。逆襲に期待したい。 

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。