【球界こぼれ話・広瀬真徳】「令和の怪物」ことロッテ・佐々木朗希投手(18=大船渡)がいよいよ今週末から石垣島で春季キャンプを迎える。

 今月11日からチームの本拠地・ZOZOマリンスタジアムとロッテ浦和球場で行われた新人合同自主トレを取材した。

 身長190センチの上背からすると体の線はまだ細いものの、キャッチボールでの直球はすでに威力抜群。同僚の新人選手に話を聞いても、口々に「球が重い」「ボールが伸びる」と絶賛する。キャンプイン後の本格的な「プロの指導」を受け、どこまで成長するのか。今から楽しみなことは言うまでもない。

 もっとも、佐々木朗の魅力は最速163キロの球威にとどまらない。ファンへの真摯な対応も目を見張るものがある。その姿が垣間見えたのがZOZOマリンスタジアムで行われた自主トレ後のファンサービスだった。

 例えば11日のこと。この日、本拠地には1000人を超えるファンが詰めかけ、サイン会が始まる夕刻には開放されていた球場の左翼席から右翼席にかけて長蛇の列ができていた。新人選手の帰寮を考慮すると、全員への対応は不可能なことが明白だった。

 にもかかわらず、佐々木朗は「一人でも多くの人に」という思いがあったのだろう。開始直後から約40分間、休むことなくファンから手渡されるボールやグッズに黙々とペンを走らせた。その表情は真顔そのもの。見守った球団関係者も「あそこまで力を入れてサインを書かなくてもいいのに」と心配したほどだった。

 時間切れでサイン会が打ち切りになるとサインをもらえなかったファンに軽く頭を下げ、直後の囲み取材では「ファンの方々が近くにいることで、応援されているという実感が湧きました。その分頑張らないといけない」と語った。練習後の疲れた肉体に加え、寒風吹き荒れるグラウンド内でのファンサービスは決して楽ではなかったはず。それでも嫌な顔一つ見せず、応援してくれる人の気持ちに応えようとする姿は見ているだけで好感が持てる。

 19日に行われたファン約600人とのハイタッチでも、一人ひとりに目を合わせた。小学校低学年であろう野球少年には長身を丸めて視線を合わせる配慮も忘れなかった。わかっていても18歳の新人選手が簡単にできることではない。それを自然体で行えるあたりも、球界を代表するスーパースターへの素養だろう。

 今後の春季キャンプ、実戦登板ではこれまで以上に注目が集まる。結果次第では厳しい声が上がるかもしれないが、佐々木朗は歴代の大投手が歩んだ軌跡をたどる雰囲気を漂わせている。

 ☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心に、ゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。