令和の怪物・佐々木に“地球初の魔球”会得の可能性

2020年01月03日 16時32分

活躍が期待される令和の怪物・佐々木

「令和の怪物」は新時代の魔球の使い手となれるか。ロッテのドラフト1位で高校生史上最速163キロ右腕の佐々木朗希投手(18=大船渡)に、これまで誰も投げることができなかった“ホップ魔球”会得の可能性が浮上している。提言者は流体力学研究の第一人者、理化学研究所の姫野龍太郎博士(64)。本紙を通じ現エンゼルス・大谷翔平の故障を渡米前から予言していた博士は、怪物の向こうにどんな未来を見たのか。

「投げ方さえ変えれば、今すぐにでも“ボーダー”の球は投げられる。速い球を投げる投手はいくらでもいますが、これまでホップする球をコンスタントに投げられた投手はどこにもいない。彼なら新時代の魔球の使い手になれると、僕はそう思います」

 理化学研究所情報システム本部。一見野球とはなじみのない言葉が並ぶ国内最先端の研究施設で、姫野博士はそう断言した。博士の専門は流体力学。空気抵抗の観点から変化球の研究に長年携わっており、松坂大輔がメジャー挑戦した折にはジャイロボールの調査のため米国に同行。また、大谷翔平のメジャー移籍前年には肉体改造による故障の可能性を本紙に予言していた。

 本紙は今回、佐々木朗が160キロを計測した夏の岩手大会準々決勝、盛岡四戦の動画分析を依頼。日本ハム時代の大谷が16年の日本シリーズで記録した日本人最速の165キロとの比較検証をお願いした。

 ボールの軌道を点描した2枚の静止画では大谷のボールが直線的に進んでいるのに対し、佐々木朗のボールはやや沈んでいるのがわかる。やはり大谷は別格かと思いきや、そうとも言えないと博士は言う。

「佐々木くんはボール1個半、約100ミリほど落ちていますね。球速や回転数の差に加えて、回転軸が水平から25度ほど傾いている。その分シュート回転が働いて揚力を10%ほどロスしているので、おそらく回転数は毎秒43回転といったところ。これは並のピッチャーよりはるかに多い回転数。軸を水平に近づけてあげることが、垂れない直球への近道です」

 ストレートはバックスピンをかけ揚力を得ることで、重力に負けずにミットまで届く。これまで多くの投手を計測してきた博士によると、大谷が記録した165キロこそが、重力と揚力がちょうど拮抗したまったく垂れない“ボーダー”の球だという。

「気温20度、1気圧の場合で、時速165キロ、水平方向に毎秒41回転すれば球は落ちません。ややシュート回転していたぶん回転数はもう少し多いですが、これが大谷が日本シリーズで出した一球。同じ環境下で時速160キロなら回転数は毎秒44回転、163キロなら毎秒42回転がボーダーラインです」

 最速163キロ、毎秒推定43回転の佐々木朗は球速、回転数はすでにクリア。あとは回転軸の傾きを抑えれば、大谷の一球を再現できるという。それだけではない。博士はその先にある、魔球の可能性にも言及する。

「ホップ魔球です。当然、同じ条件で先に挙げた数値を上回ればボールは重力に逆らって浮き上がる。回転軸が水平であればコンスタントにボールをホップさせることができるようになります」

 リリースポイントよりも球が浮き上がってくる魔球。ピンポン球にバックスピンをかけ、浮き上がらせた経験のある人はいるだろうが、野球のボールでも可能とは…。そして“ホップ魔球”は佐々木朗の体を守ることにもつながると博士は言う。

「球速を追い求めすぎると、当然体に負担を及ぼします。その点ホップ魔球は回転軸を水平に近づけるだけなので、170キロを投げるよりも負担は少ない。さらに打者へのインパクト。内角高め、顔の近くに浮き上がってくる球を一球でも見せられたら、そこから対応するのは至難の業でしょう。浮き上がる球を待つわけですから、当然スプリットやチェンジアップなど落ちる球の威力も倍増する。速いだけの球なら打つことは難しくないですが、ホップ魔球はコンビネーションでも効果を発揮するんです」

 では、世界を見渡してみてもこれまでホップ魔球を操る投手がいなかったのはなぜなのか。博士によると、日本にこそこの魔球が誕生する下地があるという。

「メジャーの投手を調べたこともあるんですが、10球投げれば10球、回転数も回転軸もバラバラということがザラにあった。向こうではムービングボールが主流で、日本のようなきれいなバックスピンを指導する土壌がない。ナックルボールを米国の魔球とするなら、ホップボールは日本の魔球と言えるでしょう」

 バックスピンによる揚力が重力を上回り、徐々に上昇していく魔球。令和の怪物がこれを会得したとき、野球界に新時代が到来するかもしれない。

☆ひめの・りゅうたろう=1955年生まれ、大分県別府市出身。理化学研究所情報システム本部研究開発部門計算工学応用開発ユニットリーダー、数値流体力学者、工学博士。77年、京都大学工学部電気系学科卒業。79年、同大学院修士課程終了後、日産自動車に入社。自動車の空気力学的特性を数値解析する研究に従事する。98年、フォークボールの計算機シミュレーションの研究を機に理化学研究所に移る。著書に「魔球をつくる」(岩波書店)、「野球が面白くなる変化球の大研究」(岩波書店)、手塚一志との共著に「魔球の正体」(ベースボールマガジン社)がある。趣味は天体観測とソフトボール、ポジションは捕手。