愛の提言だ! 広島・長野久義外野手(35)が12日にマツダスタジアム内の球団事務所で来季の契約を更改。5000万円減の1億7000万円プラス出来高払いでサインした。会見では不本意な成績をわびて来季の巻き返しを誓ったが、激動の移籍1年目を振り返る節目の日に「伝えたいことがある」と本紙を通じて球界にメッセージを発信。当事者の一人として、FA人的補償の制度改革を叫んだ。

 衝撃の移籍で幕を開けたプロ10年目は最少の72試合出場にとどまり、打率2割5分、20打点。夏場には長期の二軍生活を経験するなど、消化不良の一年となった。「ユニホームの色が変わって、背番号も変わって、場所も変わって。初めてのことばかりで戸惑うこともありましたけど、すごくいい経験をさせてもらいました」と振り返り、「チームが勝てなかったことが悔しいですし、自分の成績も良くなかったので申し訳なく思っています」と素直に頭を下げた。

 20%を超える減俸をのみ、FA権を行使せず残留を決断。言い訳の利かない移籍2年目のシーズンへ向けて「やるしかないので、頑張ります」と短い言葉に決意を込めた。スロースターター返上へ、今オフは走り込みで下半身をいじめ抜くという。

 ただ大幅ダウンでもしんみりムードで片付けないところはさすがで、神妙な表情の報道陣に対して「自主トレは尾道で」と返すなど、軽妙なやりとりで緊張をほぐす場面も。交渉直前には「たまたま通りかかった」と、地元テレビ局の人気情報番組に飛び入りサプライズ出演。「この番組を球団の人が見ているかもしれないので、少しでもアップしてもらえれば」とちゃめっ気も振りまいた。

 ダウン更改でも周囲や地元ファンへのサービスを忘れないのが長野らしかったが、本紙はこの日、いつになく真剣なトーンで、あるメッセージを託された。「これは今だからこそ、僕が言うべきことだと思いまして」。テーマは古巣の巨人・原監督が「撤廃」を主張していることでも話題のFA補強に伴う人的補償制度について。その当事者が移籍1年目のシーズンを終えた節目で口を開いた。

「今後の補償に選ばれる選手のためにも、通達のタイミングをもう少し早めてもらえたら。(FA合意の公示を起点に)40日以内というのは少し長すぎますよね。できれば年をまたがず、年内には決まるようなシステムになればいいなと」

 巨人時代に選手会長も経験した長野はFAやトレード、議論中の現役ドラフトなどで移籍が活発化すること自体は歓迎の立場。“戦力の均衡”を目的とした人的補償制度も理解しているが、問題視しているのは現行制度の中身にある。丸の移籍合意が公示されたのは昨年12月11日だった。

「僕の場合、正式に決まったのがアメリカに滞在中の日本時間1月7日。最初は『帰ってきてくれ』と言われたのですが、球団の厚意で向こうにとどまることを許してもらいました。でも若い選手の場合はそうはいかないケースも出てくるでしょう。トレーニング施設やホテル、練習相手の手配などをキャンセルして、帰国の航空券を手配したりするのは負担になります。おそらく練習どころではなくなる選手も出てくるでしょう。この制度で移籍する選手の立場について、もっと真剣に考えてもらえたら」

 普段は前に出ることを嫌う長野が意を決して言葉を発したのは、真に今後の補償選手たちの身を案じてのこと。今冬もBランク以上のFA選手を獲得したロッテ、楽天が互いに28人のプロテクトリストを提出済みだが、両球団から補償選手の獲得発表はまだない。

 ただ長野の場合、通達が年明けまで長引いたのは昨年の契約更改が12月21日とチーム内で最も遅かったという事情もあった。通達時期を早めた場合、未契約更改選手の新年俸査定をいかに行うのかという難題も生じる。事はそう簡単ではない。

 それでも某球団幹部は「心情は分かるし、無理な話とは言い切れない」と議論の余地はあるとした。この件に関してはプロ野球選手会の内部でも「現役ドラフトより、現行のFA制度改革を優先すべき」との声も上がっているといい、選手間の関心は高い。球団間の論理だけではなく、選ばれる選手に寄り添ったより良い制度に――。長野の叫びは球界に響くか。